GoShuさんから頂いた 短編十二ヶ月 九月期作品群の ご感想のご紹介

今回もリライト作、リライト意図はまだ見ておりません。

>進行豹さん
独特の味のある好作です。
これまでにない作風で、楽しめました。

舞台を限界集落などとは桁の違う孤立環境に持ってきたことで、
全体に「滅びの雰囲気」が漂っています。
そこで「音楽」を配置することによって、
独特の世界が表現されています。

ただ、そうであるだけに、このラストでいいのか、
という点に若干の疑問が残ります。

きこりの「演奏」、鳥との「セッション」は、最初の一回きりで
終わってしまいます。

それを聞く人は誰もいません。

「聞く人がいない音楽」というものはある意味特殊なもので、
それはちょうど今回のKAICHOさん作品、糸染さん作品を読めば
明瞭かと思います。

この特殊な隔絶した世界の中で、このような特殊な音楽を
演奏させることの意味合いを、どうもすっきり納得することが
できませんでした。
(鳥や動物は、やはり「聞き手」の中には入らないと思います)

きこりの演奏は、完全に閉じた円環の中での行為という印象を持ちます。
その、冷たささえ感じさせるイメージを表現したかったんだろうか。
作品のイメージからして、そうは思えないのだが……
と、腑に落ちない感じを持ちました。

個人的には、遠くからでも、聞く人がいたほうがよかったんじゃ
ないかと思います。

 

>yositaさん
yositaさん作品について最近思っていることがありまして、
それは「絵にしたときの面白さ」です。
たとえば「トイレで口論する母子」であるとか、
「ネコ耳バンドをつけた青年」であるとかです。
いずれも絵にすれば面白いと思います。

こういう、絵的な面白さを持った作品は、この企画では
あまり見かけることができません。

yositaさんの才能も、文章そのものよりも、
「絵にしたら面白いシチュエーションを作る」という方面に
発揮されているのかな、という気もします。
それはそれで得がたい才能と思います。

しかし今回は、絵的には面白いところはありません。
「文章だけで表現する」ということで、
なにか新しい境地に入られたのかな?と興味深かったです。


とはいえ……

「子供の頃から妙だとは思ってました。」から始まる一連の文章は、
娘のことかと思えば母親本人のことですし。

「日本国民が全員、あらゆる場所で同じ音ーー」の部分で、
唐突に奇妙な考えがポンと提出されますし。

前半部分がメールだということも、しばらくしなければ
わからないくらい不明瞭ですし。

「これが噂に聞く『モンスターペアレント』か」も、
普通の文脈でも言葉の意味としておかしいですし、
真相を知っている教師の独白としてもやっぱりおかしいですし。


これらは一例ですが、全体的にあまりにも文章が無造作で、
「神経が行き届いていない」感が強いです。

読み返しておかしいと思わないのかな、ということが
ちょっと不可解です。

アイディアも、申し訳ないのですがまったく目新しさがありません。
walkmanやiPodがなくても、一人で音楽を聞いていることが多ければ
十分に成立するアイディアであり、40年前に眉村卓あたりが
書いていそうです。

 

>KAICHOさん
よくできています。
問題は、クライマックスへの導入(老紳士が都合よく出てくる)と、
ラストがこれでいいのか、という2点のみです。
特にラストは、主人公の今後の人生がどうなるのか?
それを予期させるものであってほしいし、
この作品であればそうあるべきかと思います。

それ以外は、私はこれでいいと思います。

ヤスリガケはできるでしょうが、それはKAICHOさんの力をもってすれば
今後自然によくなっていくでしょうから、特に何か言う必要も感じません。

 

>山田さん
山田さんの文章はちょっと不思議です。
申し訳ないのですが、あまり上手いとは思いません。
でも、テンポはあるし、文章が手に入っているという印象も持ちます。

「バランスをうまく取っている文章」というのが一番しっくりする表現でしょうか。

アイディアは、ちょっと女の子の性格に不自然さを感じますね。
4分33秒に結び付けるために無理に作った印象があります。

とはいえ、ボーイ・ミーツ・ガール譚は、だいたいファンタジーの色合いを
持つものですし。
これはこれでいいんじゃないか、という気がします。

ちょっと煮え切らない感じですみません。

正直に言うと、あまり感心もしなかったし、あまり好きでもないなあ……
というのが第一印象でした。

とはいえ、はっきり悪いところも見当たらないし、読み返してみたら
技量を感じる部分もあったし……

という読後感から、以上の感想となったものです。ご容赦ください。

 

>糸染さん
説教臭い!
この一言に尽きます。

三村と吉川の持つ問題点はいいのですが、それを描写するにあたって
こういう女の子を出して審判させるのは、ちょっと手法としてまずすぎます。
「これじゃデウス・エクス・マキナだ」と読んでいて思いました。
言葉の本来の意味とは違いますけど。

天城が過去作に登場する女性を彷彿させるのも巨大なマイナスポイントですね。
こういうエキセントリックな女性を何度も出すべきではないと思います。

文章はよいです。

上記のとおり、三村と吉川の持つ問題点も面白いです。

しかし残念ながら、構成が悪すぎました。

作品の出来に波があるのもまた才気を持つ作者の宿命でしょうか。

次回作を期待しております。

 

以上となります。


掲示板で「基礎体力」の語を使いましたが、その意味は書いてあるとおりで、
進行豹さん解釈は深読みし過ぎです(笑

エラーが少ないと、ピリッと引き締まった感じが出てきます。

今回、それを特に感じたのはKAICHOさんと糸染さんです。

面白いもので、そういう作品は、感想も書きやすかったりします。
作品意図が明瞭に表現されることにつながるからでしょうね。

それでは。


<いただいたご感想は以上です。ご感想、ありがとうございました!>