>進行豹さん
「論文」と「物語」というものを対照的にとらえるとして、何が違うのかというと、「理論/現象/事実」に対し、“それそのものが主題である”のか、“それに対する人間の反応が主題である”のか、ということがあるかと思います。
その見方をすれば、この作品は完全に「論文」です。
テーマとなるJLの考え自体は面白い。
しかし、さて、それに対する“反応”は?ということになると、なにも描写されていません。
JLの考えを聞いたのは2者です。「私」と、マスたる「大衆」です。
「私」は、JLの考えを聞きはしましたが、言葉にならない反感をいだいた描写があるのみで、あとはラストの「考えてみようと思う」だけです。
「大衆」については、「多数投票」という反応を見せはしましたがそれだけです。
その意味は?
JLのような意見を聞いた時、人は「もっともだ」と思う反面、自己弁護も含んだような反感も感じると思います。
それを踏まえて出た結果が「多数投票」なわけですが、その「数」の内実はそう簡単なものであるわけがない。
このアンビバレントを表現するのが「物語」の使命だと思います。
そこのところの描写がなにもないのは、大きな問題だと思います。
たとえば、最後に「私」と、誰か有権者のオッサンが酒場でたまたまJLについて話をする、などの描写を付け加えただけで、まったく話は違ってくるでしょう。
そのときの「私」と「オッサン」はどんな話をするでしょうか。
これは一つの例ですが、物語はそこから始まると思います。
人物造型について非凡な能力を持つ進行豹さんにしては上手の手から水が漏れた感が大きく、非常に残念な作品です。
JLの話が面白かっただけに、余計です。
>山田さん
初お目見えです。はじめまして。
SF的な語り口は、うまくいっていると思います。
「人間が自分なりの理由で生み出した知性体が、その理由とは関係ない、自分なりの理由と意志でもの思う」
という雰囲気はよく感じ取れました。
ロボットの主観で話が進んでいきますが、
・事実認識
・思考
は、描写がはっきり分かれています。ここはロボットらしくていい点です。
しかし、「思考」の部分が、あまり成長の段階を踏んでいるようには見えません。
今回のような話では、「思考」の成長/発展の仕方が重要だと思うのですが、描写は以下のとおりです。
・僕の中にはひとつの疑問が生じていた
・はるかにマシなのだと知った
***ここで別れ***
・彼女の目的についても考えてみた。(このパラグラフ、思考が大半)
・彼女たちが望む「なにか」にはなれなかったのだと悟った
別れる前はほとんど何も考えず、別れたらいきなり考えはじめ、最後は「悟った」という、かなり高度な知覚に達します。
別れることでブレイクスルーがあるのはわかるのですが、あまりにも別れ前が流されるまますぎて、別れ後の思索にうまくつながっていません。
もっと、事実認識ではなく、「思考」(成長/発展を描写するため、最初は単純なものからだんだんと高度に)の描写を前半に入れておくべきではなかったかと思います。
また、物語の背景および事実関係について。
「人類の生物的限界により、高次知性体との接触は非常に危険である」のはなぜなのか。
それに対する対処として、「人間の思考を持った機械」がなぜ適切なのか。
これについて、納得できる描写がありません。
また、「そして、彼女の目的についても考えてみた。」から始まるパラグラフ(本作の肝となる部分)との整合性も取れていないように感じます。
いったい、「彼女」をはじめとする人間は、なぜこんなことをしたのか。
「そして、彼女の目的についても考えてみた。」から始まるパラグラフは正しいのか単なる勘違いなのか。
について、よくわからなくなってしまっています。
結果として、「そして、彼女の目的についても考えてみた。」から始まるパラグラフの内容を訴えたいであろう作品が、焦点のぼやけたものとなってしまいました。
うーむ。。。我ながら厳しいですね。
まあ、(短編十二ヶ月の)後半戦モードなのです。
>achroさん
天性を持つダンサーと、催眠術師という取り合わせはいいですね。
ヒロインの感性を表す題材として「白鳥の湖」を持ってくるのもわかりやすくていいです。
催眠術師が職業として接しているのでなく、友人という立場であるのも適切だと思います。
あとは、「私」とヒロインの関係ですね。
もう少し突っ込んだエピソードがほしいです。
そこがやっぱり大事な点だと思います。
いつぞやの人形の話と同じで、そこが抜けていては、作品として常に不十分になってしまうものだと思います。
>yositaさん
中盤からホラーになり、それがコミカルでもなく、直球ホラーになったのに驚きました(あまりよくない意味で)。
上記のとおり、まだリライトとリライト趣旨は読んでいませんが、9月1日付の不機嫌亭制作日誌を見る限り、たぶんリライト趣旨に私の言いたいことも書かれていそうです。
読んでいないのに無責任で申し訳ありませんが、そちらに譲ります。
なお、上記日誌は「当たり前のこと、基本」が書かれているだけかと思います。
「それを踏まえて、どう応用していくか」こそが難しく、かつそこからが本番だと思っています。
>KAICHOさん
「人情もの」とくくってしまっては申し訳ありませんが、前回と似たような印象の地味で堅実な話です。
でも今回は前回よりいいと思います。
それは、主人公の心の動き、行動のディテールがしっかり書かれているせいだと思います。
残念なのは父親の心の動きと考え方。
その描写が足りません。
「背中で語る」という形を取っておられるのかもしれませんが、それにしても情報量が少ないと思います。
「20万円」というお金の意味で締めくくられるので、そこに対する父親の考え方や思いは必須なのではと思います。
そうでないので、「いきなり終わる感」も受けてしまいました。
とはいえ、そのあたりがきちんと描写されれば、かなり水準の高い作品になると思います。
こういう地味な話で(地味だ地味だと言ってすみません)挑戦するのは個人的にもとても好きです。がんばってください。
というわけで、毎度のことながら言いたい放題ですみませんでした。
だんだん、感想を書くのも難しくなってきているというのが実感です。
「作品を読んで感じる不満」を言語化するのが難しくなっているのですよね。
というか、前は流していたことも、後半戦になったことから、あえて書いているので難しくなる、という側面もあります。
それでは、みなさん来月もがんばってください。
糸染さん復帰!