GoShuさんから頂いた 短編十二ヶ月 十月期作品群の ご感想のご紹介

例によって、まだリライト稿、リライト趣旨は読んでいません。
リライト稿の感想も書きたいんですけどね……なかなかその暇が……

>進行豹さん
大きな欠陥が二つあり、あまり評価できません。
1.なぜこれがループになるのかわからない
 初読で作品の意味がわかりませんでした。
 再読して、「作家・編集者・印刷所がそれぞれ1日遅らせたから
 いつもと同じことになった」という意味であろうとわかりました。
 しかし、作家は1日遅れましたが、後の2者は、
 作家の遅れを巻きとることはできなかったにせよ、
 「自分の作業がいつもより遅れた」というようには読めません。
 であれば、今月はいつもより2日早かったんじゃないでしょうか。
 ならばループにはなりません。
2.あまりに実録過ぎ
 実際には毎月書きおろしはしておいででないでしょうが、
 それ以外は作者体験談に依拠しすぎていると思います。
 風の噂でサイン本を出しておられるという話も聞きましたし。
 読んでいる間中、創作作品を読んでいるのではなく、
 新規のハウツー本シリーズを読んでいる気がしました。
 実話を折り込むのももちろん手法としてはありますが、
 新しいアイディアが希薄で、実話依拠部分が多過ぎると、
 手抜き感が漂ってしまうものだと思います。
あと、今回は特に誤字が目立ちましたね。
統計は取っていませんが、お忙しさと正比例するんじゃないかしら。
各登場人物の語り口は面白いです。
 
>KAICHOさん
ちょっとこの犯人の行動が不自然すぎると思います。
「裁判長の一言」に対してこのような反応をするものでしょうか。
判決が不服であり、自分が正当と思うならば控訴すればいいだけの話です。
そうしなかったということは、この犯人は、
「こういう考えを持った人間が裁判官にいることが許せなかった」
ということになる気がします。
裁判官個人に怒りが向く。
それはまっとうな心の動きでしょうか。
初読のときは、
「犯人は、自分が実は正当でないことをわかりたかった=
裁判官が激昂しないことを期待していた」
のかなあ、とも思いました。
しかし、妻子を殺されて、そういう風に人の気持ちは動くものでしょうか。
妻子を失った悲しみよりも、贖罪の気持ちのほうが強いということですから。
仮にそうだとしたら、裁判官に対してこういう行為に走るでしょうか。
どちらにしても、この犯人は、かなり異常な精神の持ち主と思います。
しかし、異常さを示すような描写がどこにもありませんので、
結果としては「不自然」ということになります。
そして、物語としては、この事件から何かを含意すると
いうものではなく、「こういうことが起こった」というだけの
ものですので、ここで不自然だと致命的になります。
というわけで、この話は評価できません。
あと、裁判実務で不正確、あるいは不自然な描写が散見されます。
私の大学時代の専攻は実は刑事訴訟法だったのですが、
お恥ずかしいことに、確定判決後の事務処理のことは考えたことも
ありませんでした。
しかし「担当裁判書士」という用語を見て「??書記官のこと??」と思い、
調べてみたら、確定判決後の裁判執行は検察官の仕事であるようです。
仮に裁判所の誰彼が会うにしても、本人ではなく弁護士でしょう。
これらの知識が不明確なのであれば描写自体を避ける(うまいこと逃げる)
べきと思います。
 
>yositaさん
テンポは相変わらずいいです。現象自体はユーモラスでいいです。
しかしオチはもう少しなんとかならないのかな、と思います。
なぜ毎年一回だけこの現象が起きるのでしょうか。
なぜ今年は数が多いのでしょうか。
「それも今年は人数が多いみたいで、私1人じゃ手が回らない」
「らしいですね、私もそんな気がします」
というセリフがあったので、何か予感の理由が用意されているのかと
思いましたが、何もなかったようですね。
 
>糸染さん
この話はいつの話なのでしょうか。
現在の話なのであれば、なぜ老人の若いころの映像があるのかわかりません。
映像がいつからいつまでを記録しているのか不明瞭なのですが
(野球/運動会/卒業式が本人のものか、子供のものなのか不明瞭。
「友人たちと行ったらしい山での旅行」も、いつの時代なのかが不明瞭)、
仮に40歳で子供が生まれた時に開始としても、53年前に
一般家庭に映像記録装置があるわけがありません。
かといって、この話が数十年先の話とも思えません。HDDプレイヤーや、
テレビのリモコンがあります。
ゆえに、こんな映像記録があること自体が不自然です。
ゆえに、それに乗っかって構築された物語自体にも根本的な
構造的問題があります……
……と思ったのですが、途中で気がつきました。8ミリがありますね。
もはや過去の遺物となっていたので失念しきっていました。
ならばそうおかしくはない。
しかしそれならそれで、そういう説明があったほうがよかった気はしますが。
上記のとおり、話の構造の根本に関わることですので。
そこはそれでいいとして、後半の主人公の感慨には唐突感がありました。
初読ではポカンとしてしまいました。
再読して理解できたのですが、老人のエンドレス再生を見て普通の人は
「気持ちが悪い」「過去に生きると言っても度が過ぎる」などの印象を
持つと思います。
しかし主人公は「振り返るべき家族との生活が老人にはあった」
ということに着目するわけですね。
そこは糸染さんらしい独特の感覚が出ているところだと思います。
しかし、独特であるがゆえに、私にはそこが読んでいてすぐにつながりませんでした。
腐乱死体の横のエンドレス映像、というもののイメージが強烈過ぎるのです。
主人公のこの感慨に読者がついて行くためには、老人の映像の中で、
「仕事に就いてからの家庭生活」にいったん焦点が当てられる必要が
あるのではないでしょうか。
焦点の当て方は、いろいろあると思いますが。
上記のとおり、映像がいつからいつまでなのかは不明瞭です。
また、家庭生活のことをことさらに強調してもいません。

あとは、そうですね、主人公にこの性格設定をするのであれば、
前半から、もっと仕事一筋の印象を持たせるほうがいいでしょう。
仕事ぶりについては、非常に淡々と、普通に描写されています。
「仕事一筋」というのは、本人の独白でしかわかりません。
まさに現場一筋の鬼刑事、といった描写があれば、
最後の感慨についての説得力も生まれたと思います。
人生は、何かを得て、何かを失う選択の連続です。
これは、選択についての後悔の物語のはずです。
ならば、その選択の結果は今どうなっているのか。
テーマとしては重いものですから、人物を通り一辺に描写しては、
全体が薄っぺらくなってしまいます。

着眼は非凡、文章も達者。しかし残念ながらこれも今一つの出来でした。
 
>山田さん
これはいいですね。面白かったです。
前後がつながっているようでいて、つながっていない。
同じ名前の人物も、虚実交じりあっている。
ペンローズってなんだっけ、とすぐには思い出せませんでしたが、
クラインの壺のイメージは読みながら持つことができました。
うまく狙いが表現できていたと思います。
難を言うと、この構造を持つ物語だと、登場人物が多くなればなるほど
狙いがぼやけます。
その見地から、
1."「っていう夢を見たんだ」"で始まる段落
2."『緊急速報です。"で始まる段落
3."「うわ、凄い終わり方だったな」"で始まる段落
で、学生あるいは少年少女が出てきます。
彼らに(もちろん、限定的な、ですが)同一性を付与したほうが
いいのではと感じました。
具体的には、
・上記1〜3に、共通する名前の人物を登場させる。
・2と3は連続する段落なので、なんらかのエピソードを
 間に挟むことによって、分離させる。
ということになるかと思います。
そうすれば、もっと締まるのではないでしょうか。
後は、最終段落はもっと短くまとめたほうがすっきりするし、
最後のキレもよりよくなると思います。
他にももっと改善できる点はあるかもしれませんが、
ぱっと目に付くのが上記の点でした。
滑り出しはよかったけど、終わりに近づくにつれて
ちょっとダレたかな、という印象を受けましたので。
 
以上となります。
今回は辛口が多かったですが、特にそうしようと思ったわけではありません。
ここ数カ月で比較すると、アレ?と思う作品は多かった月と思います。

さて、私も人の批判ばかりしてるわけにはいかない。
自分の原稿ができてないんだから……
絶対に間違いないのは、どんな作品でも、できてないよりは無限大倍マシということですね。

それでは、来月も楽しみにしております。


<いただいたご感想は以上です。ご感想、ありがとうございました!>