achroさんから頂いた 短編十二ヶ月 十月期作品群の ご感想のご紹介


【短編十二ヶ月・十月期感想】
分量が多くなりましたのでまとめて送らせて頂きました。
先月に引き続き、原作・リライト稿の感想を書かせて頂きます。

『ループ!』
○原作:進行豹さん
業界に詳しくない身には、興味を惹かれる内容でした。どうしても実録のように見えてしまいますけれど(笑)
ただ、一読していくつか読みづらさを感じました。
一つは、段落の切れ目(「>>>作家へ」など)の表記の意味。自分はメール文なのかな、と深読みしてしまいましたので、明確に、話者が変わっていると示された方が良いのではと。
もう一点は、地の文の使い方について。1,2,4段落では地の文が心情語ですが、3段落では台詞なのですよね。やはり、どちらかに統一した方が読みやすいかな、と思います。
(前者に合わせる方が順当ですが、あえて後者にして、皆が知り合いに愚痴っているというのも、それはそれで面白そうですね。なんて)
それにしても、
「プリントアウト、持って来ちゃってました。」
「オペレーターのお前さんが、〜」
など一人称で自然に状況説明を入れるテクニックは、さすがという感じがいたしました。

○リライト稿:yositaさん
この作品のリライトは難しかったと思います。
というのも、上記のように進行豹さんの実体験にも見えるお話ですので、それを変えちゃうと事実に即さない(ような気がしてしまう)からです。
とは言え、間違い探しのようになるのも実に微妙です。いっそ大規模に(あらすじだけ残すなど)変えてしまった方がいいのかもですね。

『被告人を懲役十年に処する』
○原作:KAICHOさん
「帰宅して玄関ドアを開けると、そこは一面の血の海だった。
」というはじまりはキャッチーですね。
ただ、全体的に描写が説明的すぎる気がしました。
「テレビの前に、人が倒れているのが見えた。〜 妻と、娘だ。」
など、状況が非日常的なのにも関わらず、落ち着いた語り口調だと、話に入り込みにくい感じがします。
(私が主人公に感情移入して読み進めるタイプだから、というのもあるかもしれませんが)
主人公の性格もあるのでしょうが、であれば激情に任せた部分では短い描写になる、といったギャップがあると面白そうです。
また、一場面物に近いのですが、「その言葉を反芻して、私は、思い出していた。」と回想するシーンでは、十年前の資料を引っ張り出すなど、動きがあった方が盛り上がるかなと思いました。

○リライト:糸染晶色
主に整合性を取るリライト、なのですが……こうした整合性の検討が、自分は苦手でして……他の視点からコメントを。
「───こいつは、誰だ?」の後や
「目の前には血まみれの妻と娘。犯人は目の前に。」
の辺りですが、説明を減らしたことでテンポが良くなり、臨場感が増していると感じました。

『帰宅拒否』
○原作:yositaさん
なんと、「プール」→「ループ」だって。そんなバカなー!
と、思わされた時点で、負けなのかなと思ってしまったり(笑)
ここだけ(なんとなく)レス調にしてみます。
>「ねぇ、知っている?」
細かい部分ですみません。
yositaさんの文章は会話調が心地いいと思うのですが、「ねぇ、知ってる?」でなく「ねぇ、知っている?」と、文章口調なのに違和感がありました。
>「なんて口の悪い子だ。
>一度東京湾に沈めてやりたい。」
こんな風に、軽い調子で凄まじい悪口を言うのがyositaさんの持ち味ですよね(笑)
毎月読んでいて、だんだん、好きになってきました。
>「ちょっと! 鞄を中身を見る必要ありますかね?!」
本当に必要なかった! なんて教師だ!(笑)
……と、言う感じで、オチには脱力させられたものの、全体としてはコミカルで、楽しんで読めました。
特に「帰宅拒否」というアイデアは面白いですね。

○リライト稿:山田沙紀さん
今回最も感銘を受けたリライトです。
まず、
「一体……どうなってるんだよ……!」
からはじまる1,2段落が実にキャッチー。
「帰宅拒否」の原因も大きく変わり、温かみのあるお話になりました。「ループ」のお題もオチに活きていますし、原作のアイデアをアレンジしつつ、学校という(時間制限のある)舞台を活かした素晴らしいリライトだと思います。
岸川くんと田川先生に焦点を絞ったのも、描写が濃くなって良かったですね。
……あと、何気なく書いてありますけど、工藤さんを運ぶところ、いいですね! 青春ですよね!(何)

『追憶に溶けていく』
○原作:糸染晶色さん
落ち着いた雰囲気の刑事物。雰囲気が良く出てると思います。
ただ、この作品は「理由を解明するミステリ」だと思うのですが、この類は、謎に興味を持たせるのも、解に説得力を持たせるのも、難しいですね。
細かい部分で言うと、
「ただ妙なところが一つだけ。」と引っ張った割にはあからさまな不審点であったり、
「なんとなく、その少年は布団の中で朽ちている老人の幼き日の姿なのだろうと思った。」
の一文が先を説明し過ぎてしまっていたり、
読者の興味の引き方が微妙かな、という気がしました。
あとは、先月に続いて、ちょっと語りすぎかな、という気が。心情語りはどうしても長くだらだらなりがちなので、(背中で語る、までいかなくても)極力行動で語った方が、くどくならないのではと思います。

○リライト稿:進行豹さん
「……ひでぇもんだ」
これはキャッチーな滑り出しですね。
リライト意図に書かれていたように、
「余談は持たない。どんなときでも。
それが現場検証の第一則だ。」や
「ファミコン――じゃねぇや。確かプレステってヤツだな」
など、部分部分で主人公のキャラクターが自然に示されていて、
さすが、と思わされました。
また、会話を中心にすることで、地味になりがちな状況描写に、テンポが生まれていますね。この辺りもさすがです。
最後の会話も、語りすぎず、小粋な好ましいものでした。

『サクラノペンローズ』
○原作:山田沙紀さん
面白い構造の作品ですね。
全体的に描写が控えめな印象で、なんとなく、ですが、演劇の台本を読んでいるような感覚がありました。段落をまたいだ台詞回しも、演劇向きですね。
ただ、小説として見ると、説明不足気味かなと感じました。場面が度々変わる小説なので、ついていくのが大変で。
段落またぎの台詞は両方の段落に書くとか、何かしら、物語構造をわかりやすく提示する工夫をした方が、読者としては追いやすいかな、と思いました。

○リライト稿:KAICHOさん
そうですね、小説として見ると、これがお手本となるリライトだと思います。
特に、リライト意図に書かれている通り
「2. 作中の登場人物やその関係は、一つの現実に沿って明確に記述する」
「4. 全段落に『サクラノミコン』という作品名を入れる」
が、統一感やわかりやすさに繋がって良かったと思います。
……それでも、やはりドラマとか、映像映えしそうな物語ですね。短編で登場人物が多いものは難しいですねー。
(ちなみに私も「ペンローズ」は存じませんでした)
 
以上、例によって好き勝手に書かせて頂きました。
今回は、特に細部に注目してみた(つもり)なのですが、皆さんそれとなく技術を使っているのだなあ、と気づかされました。
総じて見ると、やや不作かなという月でしたが、リライト稿は全体的に良かったと思いますし、感想の書き甲斐がありました。
十一月についても、また楽しみにお待ちしています。
 


<いただいたご感想は以上です。ご感想、ありがとうございました!>