短編十二ヶ月KAICHOさんご作品『冬来たりなば』リライト方針 / 進行豹

 

【1:原作をこう読んだ】

 このお話は――

1-1 “再開の約束”にまつわるエピソード
1-2 ミドリさんと店長との関係性
1-3 ミドリさんの成長もの

――の三つの軸を持ったお話だと感じました。


 プロローグ、エピローグでミドリさんの成長と、
“再開の約束”により止まっていた時間の動きだしを象徴的に描き。

 また、店長とミドリさんとの関係性について、
「冬来たりなば」(春遠からじ)というタイトルも含め、
<店長にとってのハッピーエンド>として書かれているのだと解釈しました。

 

【2: 原作のここがちょっと私にはあわなかった】

 2-1:お話の流れが、思い出話のために一度完全に切れてしまう。

   →「どんな約束をしていたか」についてを、
    「もう一度聞かせて」という要求に応じての
   “ダイジェスト版解説”として書いてしまっているため、
    そこでお話の流れから切り離されてしまったように感じました。
    サクラさんとの約束の詳細な内容が物語に寄与しているとも思えず、ので、
    「ここをそこまで書く必要があるのか」と感じました。


 2-2:店長の行動

 A/最初から、ミドリさんとサクラさんの関係がわかっていたのに、ずっと話をあわせていた
 B/閉店、といっているにもかかわらず「またいつでもいらっしゃい」

 上記、A、Bををあわせてしまうと

 「女子高生の思いつめた気持ちを利用して自分の話相手に仕立てあげていた
 (その上、閉店後の話相手としてまで確保しようとしている)」

 ように思えてしまい、どうしてもこの店長が好きになれませんでした。

 また、物語の構造的に見ると、

 「そういう約束を店長が新たにしてしまうことで、
 『果たされなかった再開の約束が、今度はミドリさんまでをも縛ってしまう』
  という構図になってしまう」ように思え、
  さらには、「店長が五十年で全く進歩していない」ようにも感じさせられ、
  なんだかスッキリしない読後感を抱えてしまいました。


 


【3:原作の良いと思った点】

  プロローグ、エピローグのイメージ。
  そして、それを用いてミドリさんの成長を描く、という点は、とても綺麗だと感じました。

 


【4:ので、どうリライトしたか】

 + 「サクラさんの表記を、さくらさんにする。その字を知ったときの感慨を描写する」
   
   →さくらさんとの約束に関する描写を、
   「さくらさんに対する特別な思いの発生」ということのみに絞り込み、
    また、表記においてさくらさんとミドリさんとの差別化をするのが良いとました。
   
    そうすれば、さくらさんはより特別な存在であり、
    ミドリさんは「あくまでお客さんの一人」(名前もくわしくしらない)にすぎないと描写でき、
    「店長が閉店を決意した理由」などが、よりすっきり自然に浮かび上がるように思いました。


 +「ミドリさんがさくらさんの孫だと、店長もしっていないことにする」
   →“子供の思いつめた気持ちを利用している”ととらわれかねない行動をしてしまう大人は、共感を持たれづらいと思います。
    また、個人的には共感を持たれづらい物語が「面白い」と感じていただける可能性は低いようも感じてしまいました。
   「面白いと感じるようにリライトする」が、短編十二ヶ月の規定ですので、
    お話が代わってしまうことは非常に心苦しいのですが、「私が、より面白いと感じるお話」にすべく、
    そのようにリライトさせていただきました。

 +「結末を変える」
   →“店長がミドリさんと新しい約束をしてしまう点”も、これもまた同様の動機にて変更させていただき、
     「未来を明示せず、読んで下さる方の想像にお任せする」よう改めました。

 +「説明を描写に置きかえる」
   →そうした方が「あ、説明だ」的に物語から冷めることなく読んでいただける可能性があがるかと思いました。
 


【5:リライトによる効果】

 上記「4」のリライトをすることにより、

 『約束にとって止まってしまっていた時計が動き出す』
  という物語の基本構図が明確になり、
 ともなって、プロローグ・エピローグの切れ味・綺麗さも増すのではないかと考えました。

 また、タイトルが暗示する「春」に、“卒業”のニュアンスが加わり、晴れ晴れとした寂しさを醸し出せるのではないかとも考えました。
 

――ひとまず、リライト方針は以上です。

 少しでもご参考になり、あるいは反面教師となる部分がございましたら幸いです。


2012/03/31 進行豹 拝