『ブレンド』リライト意図 (GoShu)


【原作について】
非常にさりげなく、非常にテクニカルな作品です。

作品の主題ですが、ブレンドの豆当て勝負が
大きなイベントであるとは言えます。

とはいえ、種明かしは肩すかし気味です。
この勝負の面白さ自体が主題ではないと思います。

では何が主題なのかというと、
「目の見えない少女」と
「客の来ない店のマスター」という、
外目には共通点のない二人の、
勝負を通した「心の交流」だと思います。

別の言葉で言えば、「好敵手同士の出会い」とでも言いますか。

六花の「結局はおっさんの勝ちか」という言葉にも表れていますが、
双方、勝負に対して意地を通して、お互いにそれを理解しています。

似たところがない二人が、通じ合うものを持っていて、
それが勝負と、その後の会話で表現されています。

勝負自体ではなく、その勝負を演じる二人の交流。
これを主題と判断しました。


主題はそうですが、「作品の狙い」が、
それとは別にあると思います。

読んでいて、かなり登場人物のイメージがつかみづらいと感じました。
その理由はよく読めば明瞭で、この作品、登場人物の外見描写を
ほとんどしていません。

こふゆについての、「整った顔だち」「白い杖」「黒くて長い髪」。
これで終わりです。
他の二人は何も描写されていません。

外見その他のキャラクター描写を排し、
会話と行動と思考だけで人物を描写する。

これが作品の狙いと考えました。

かなりの実験作という感じです。


【リライト方針】
作品の主題と狙いを以上のように定義して、リライト方針です。

上記のように考えますと、どうしても足りないのが
マスターの性格描写と思います。

好敵手の出会い、ということであれば、
マスターの風貌はわからなくとも、
性格が明瞭であることは必須です。

しかし、
「値段が高く、閑古鳥が鳴く店を経営している」
「コーヒーおよび接客については、
 プロ意識と高い能力を持っている」
以外には、性格を類推する描写がありません。

総合すると、「ゴーイングマイウェイで、
ちょっと変わり者だが、能力は高い」くらいです。

さすがに、もう少し性格を色付けするものがほしいと思います。
「孤独」では少し違う感じで、「孤高」がふさわしいでしょう。

趣味などを描写し、孤高のイメージを持たせることも考えましたが、
適切なものが浮かびませんでした。
(どうしても冗長になってしまいます)

今回は、

・米雑誌を読ませること
・コーヒー専門店にすること

以上2点によって、趣味=職業的なイメージを持たせるよう試みました。

 

次に、マスターはいくつなのか。
「しまった! 噛んだっ。」「潜まった眉根がゆるんでく。」
などの内面描写は、幼いイメージを持ちます。
10代か20代、行ってても30代の若いほう。
40代という気はしません。

なのに、六花からは「おっさん」と呼ばれています。
六花の描写は、上述のとおり、ありません。
しかし、語り口と、こふゆの叔母であるということから、
40代くらいのイメージです。

「おっさん」は、マスターが「若いのにじじむさい」
ということをからかっての言葉かもしれませんが、
やはり同年輩以上と見るのが適切でしょう。

リライトでは、マスターを六花と同年輩という想定にしました。
それに応じ、地の文を落ち着いた表現にしました。

※マスターの台詞は落ち着いていますが、
 一人称地の文は、話者の内面描写(思ったこと)なので、
 その表現が若ければ、若い印象を持ちます。

これにより、原作の特長である文章のテンポが
落ちないように意を払いましたが、どこまでできたかは
若干自信がありません。

 

次に、「なぜこふゆを目が見えないという設定にしたのか」
が、私には今一つわかりにくいものでした。

当初は、目が見える設定にしようかと思いました。


しかし、本作の主題は、「勝負を通じた心の交流」です。

上記のとおり、マスターを「孤高」といった設定にすることにより、

「目が見えないという点で、通常とは少し違う人物=こふゆ」
「ときに変わり者扱いされるということで、通常とは少し違う人物=マスター」

という、ある意味、共通する部分を持たせられます。

そして、
“人とは少し違って見られ、
 しかしそれぞれに誇り高く生きている二人の交流”

ということにすれば、主題も引き立つと考えました。

それを強調する描写を少し付けくわえています。

 

最後に、作品の「狙い」のほうですが、これは踏襲し、
不要な描写追加は行わないようにしました。

 

修正の大きなポイントは以上です。

 

後は、四種類の豆ですが、前後の記述、および豆の特徴から、
「メキシコ」は「マンデリン」の誤りと判断し、
そのように修正しています。


以上です。よろしくお願いします。