【空とピート・オブライエンについての短い挿話のリライトにあたっての方針 (進行豹)】
■ 空とピート・オブライエンについての短い挿話(以下、元原稿)の構成
→元原稿のプレミスは
「青い本の一ページに魂を惹きつけられていた飛行機乗りのピートが、やがて自ら青い本の一ページになる」
ということです。
非常に明確で、わかりやすいプレミスであると感じます。
また、そのような物語の主人公であるところのピートが、
人づきあいの苦手な(というか、元原稿においてはほぼ人づきあいをしない)おっとりした気質の人間である、
ということも非常にストンといっている部分であるかと思います。
飛行機の操縦中に寝てしまう――という浮世離れしたエピソードも、ピートの特異性を非常によくあらわしていると感じます。
■ 元原稿の、気になった点
→元原稿においては、前述の通りピートはほとんど人づきあいをしません。
そのため(そこを狙っているのかもしれませんが)
『ピートがどのような個性の持ち主であるかが、具体的にはあまり伝わってこず、そこは読者が想像で補うしかない』
ということになってしまっているように感じました。
それは「物語への没入」を難しくしてしまうのではないかと考えました。
また、そのピートが物語の途中で退場してしまい、
> --------------------------------------------
> すべてが終わったあと、健在だった両親は、嘆き悲しんで遺品を家に持ち帰りました。
――以下の後段が始まってしまうため、
その時点で、(私の感覚としての) 『ピートの物語』は終わってしまいました。
そのため、同部分以降は「そういうアイディアを構成するために付け加えられた文章」という風にも見えてしまいました。
これでは、せっかくの明快なプレミスがもったいないとも感じました。
■ そこで、リライト方針
→元原稿で私が気になった点は
A:「キャラクター性が出てきていないため、共感が難しい」
B:「ピートの死によって、物語の締めくくり部分が“物語の外”に出てしまう」という二点です。
上記2点のうち、断固として解決しなければいけない部分はBだと感じました。
元原稿の語り口(三人称)を維持し、
かつ、物語の分離を防ぐためにピートだけをみる)とやった場合に
Bを回避する手段には、
「ピートを生かし、老後に偶然、自分が取られた写真を手に入れて、
『ああ、僕はあの絵の光景になっていたんだ』と振り返る」
くらいしか、私には思いつけませんでした。
が、ピートの死は、間違いなくプレミスを強く輝かせる重要な要素です。
ですので 『物語の人称を変更する(一人称にする)』のが、良いリライト方法であると考えました。
もちろん、ピート一人称では、死後に幽霊なり霊魂なりを出すことでしか物語の分離を防げなくなってしまいますので、
「視点キャラ(物語の語り手)」を、ピート以外に設ける必要があります。
恋人……を出してしまうと「ピートというキャラクターの性質」が変化するように思いましたので、
ピートの父、ピートの母あたりが真っ先に思い浮かびます。
しかし、両親はピートが飛ぶ現場にいあわせることができません。
ですので「ピートが飛ぶ現場にいあわせることが出来るキャラクター」として、
「ピートの友人」を設定し、視点キャラとすることとしました。
では、どのような友人にするか。
これは「ピートの対極。普通であれば、ピートと接点を持てないようなキャラ」にしたほうが、
ピートの個性をきわだたせ、Aを同時に解消できるようになると考えました。
おぼっちゃん、パイロット に対比させるのですから
(戦前イギリスにおける)労働階級の庶民、整備兵―― あたりが良いかなぁ、と。
ここまで考えると、ピートの「空の青にあこがれる」という気持ちにより一層の説得力を増すため、
「二人の生まれ育った町を、“霧の”という枕詞で有名なロンドンにするほうがベターだ」
というアイディアが浮かびますので、そのように設定します。
これで、「プレミス」「視点」「キャラクター」「関係性」「舞台」が整いますので、
あとは元原稿に沿って物語を書き進め、資料を読んでエピソードを適宜補強すれば、完成です。
タイトルは、「行って帰る物語」であることをより強調するため、
『ピート・オブライエンの帰還』と改めました。
――以上のような方針をもって、私はリライトをさせていただきました。
少しでもご参考になる部分、あるいは反面教師として頂ける部分がございましたら幸いです。
2012/02/29 進行豹