全体の流れはテンポよく、構成に手を加えるべきところは見当たらない。
以下の引っかかる部分について補正・説明する辻褄合わせをしたほか、
具体的理由はないが感覚的「自分ならこうする」というように表現に若干の加工をした。
・
「気分はどうか、だと? いいわけがない。妻と娘が刺され、その犯人が目の前に居るのだ。」
「悪いに決まっている! 妻を刺され、娘を刺され、気分のいい夫がどこに居る!?」
の部分は野暮に思えたので削除。
・
「しかし、正常なのはそれだけだった。返り血だろうか、男の服の前面は、ほとんどが赤黒く染まっている。」
と
「こんなに「普通な」被告人など見たことがなかった。」
の部分で「正常なのはそれだけ」「こんなに普通な」と逆の形容をしている点について
特段の意図を込めているようには読み取れず、「普通」との形容と対になる
「被告人といえば〜病的〜」という表現も違う気がしたので削除。
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「被告人は帰宅直後、自らの妻及び娘が刺殺されていること、及び犯人Aがまだ邸内に
居ることに気づき、逆上。Aと格闘の末、奪った包丁にてこれを刺殺した。Aが被告人
宅に押し入った理由は、被告人とAとに面識が無いことから行きずりの強盗と推測され
るが」という内容だとむしろ正当防衛ないしは過剰防衛になりそうで変更を要する。
とりわけ『格闘の末』の部分。「彼」の行為をやむを得ないものと示す意図だとは思うが、
それは正当防衛とならないようにするため攻撃性を強調する事実認定とした。
・
また事件の内容についてはっきりと「詳細は不明」と述べることや、
有罪判決を下した被告人に「あなたの行動が間違っていたとは言わない」と言うのは、
通常の裁判官としては考えがたい。
・
「被告人」であった「彼」について10年間での変化ということは言えるかもしれないが、
10年前において妻子を失い、控訴もしない『諦観』を示していた無気力な「彼」と、
現在において、このような行動に出て、死してなお私を嘲けるように笑っていた、シニカルな「彼」
とが人物像として重ならず、違和感を拭えない。