ハリウッド・リライティング・バイブルの勉強 2013/06/24- 不機嫌亭ゲーム班 進行豹 +このテキストはリンダ・シガー著 愛育社刊 『ハリウッド・リライティング・バイブル』を読んでの所感を わたくし、不機嫌亭ゲーム班 進行豹が、自己の学習を目的として 私的にまとめたレジュメとなります。 ―――――――――――――――― 【イントロダクション】 + 素晴らしいアイディアを得たからといって、 素晴らしい脚本が書けるわけではない。 + ライティングとリライティングがあって初めて、 脚本は素晴らしいものに仕上がる可能性を持つ。 + ライティングとリライティングの基本原則は同じ + それは「アイディアの整頓」  「ストーリーテリングの技術」  「キャラクター作成の方法論」  といった、いくつかのメソッドの複合 + ライティングとは、それらのメソッドを用い、 初稿を完成させるための技術。  リライティングとは、それらのメソッドを用い、 初稿の機能していない部分を機能させる技術。 + リライトの大原則は  『機能しない部分を直し』  『それ以外はそのままに残す』 + リライト失敗の最大要因は、  『もっと、もっととリライトしてしまう』こと。 + リライターは、(機能していない部分を機能させることにより)  『脚本を軌道に載せる』ことのみを目的としなければならない。  “それ以外の部分”へのリライトは、脚本を軌道から外してしまう。 + リライトを困難にする要因は、  1:『作業を始める前に、問題点を明確に定義できていない』  2:『作業を始める前に、問題点を分析していない』  のいずれか。 + 脚本の一部分の変更は、当然、他のすべての部分にも影響を及ぼす。 + ゆえに、問題点をしっかり分析し、  明確に定義できなていないうちには、リライトに着手してはならない。 + 本書(ハリウッド・リライティング・バイブル)では、  頻発する類の問題点の解決手段を探るため、  成功した映画の脚本を教材としていく。 ―――――――――――――――― □ 第一章 アイディアをいかにまとめるか □ + アイディアは完全な形では訪れない。  執筆するためには、それを整理することが必要。 【アイディアをいかに整理するか】 + 脚本は   「ストーリーライン」  「登場人物」  「根幹を為すアイディア(プレミス)」  「イメージ(トーン、空気感)」  「ダイアローグ(対話)」 という5つの主要な構成要素に分割できる。 + どの要素から着手しても脚本は出来上がるが、  いずれかの時点ですべての要素を統合することが必要になる。  そのための代表的なアプローチ法は、以下。 +<インデックスカード>  →カードにアイディアやシーンの断片を書いていく。   カードの並べかたをあれこれ変化させ、   ストーリーラインや構成を考える  <アウトライン>  →おはなしの骨組み部分だけを書いていく。   エピソードの細部やサブキャラクターのエピソードなど省き、   とにかくメインストーリーラインの骨組みだけを書く。  <トリートメント>  →アウトライン+肉付け。   いわゆる<あらすじ>。   全体の流れを確認しつつ、重要なエピソードの細部や、  サブプロットの付け外しなども試したり。    <ライターズノート>  →設定メモ。   キャラクターや、舞台背景などについて掘り下げてつくるメモ。   「キャラクターの誰かの視点」でキャラクターに関するメモを  つくれば、それはダイアログに関するメモにもなる。  <録音>  →ICレコーダーかなにかを常に手元において、思いつくことを録音。   時間をおいてから聞いて、有意そうなものを書き写す。  <とにかく書いてみる>  →書いてみて、突っかかったらいろんなテクニックを試してみる。   もし書ききれて仕上がりがいいなら、それで必要十分。 + 創造のプロセスに唯一絶対などというものは存在しない。  ゆえに、間違った方法というのものも無い。  書けるまでためすべき。 + 脚本を書き始める前に以下のことをチェックすると役にたつかも Q「その物語を何故書きたいのか」 →この答えが明瞭なほど、頑張り抜ける可能性が高まる(かも) Q「五大構成要素  <ストーリーライン>  <プレミス>  <キャラクター>  <イメージ>  <ダイアログ> を整えられているか」 →全く未着手な要素があるうちに書き始めるのは無謀(かも) ―――――――――――――――― □ 第二章 三幕構成 □ <三幕構成の基本> + 三幕構成とは、  アクト1,アクト2、アクト3の三幕で構成される物語 + アクト1とアクト2の間には  「第一ターニングポイント」(一つ目の「転」)  アクト2とアクト3の間には  「第二ターニングポイント」(二つ目の「転」)  がある。 + アクト1の前には「セットアップ」(導入)  を設ける + アクト3の終盤にはクライマックスを用意し、  クライマックス後にレゾリューション(解決)を置く。 + ↑が、三幕構成の基本的な骨組み + *個人的メモ  (シド・フィールドは、上記の他に、   「ミッドポイント」<=物語全体の中間の転換点>   を、三幕構成の基本要素に加えている) <セットアップ> + セットアップ。  映画でいえば、「最初の十〜十五分程度の間」。  脚本中【最も重要】といっても過言ではない部分。   + セットアップの役割は、  「ストーリーを理解するにの必要なすべての鍵を   受け手に与えること」 + すなわち  <主人公は誰か>   <いつの時代の、どこでの、何についての話か>  <物語のトーンはどんなか。コメディなのか、シリアスなのか> + そういったものが疑問だと、受け手は物語に集中できない。  また、セットアップがクソだと受け手は物語からそっぽを向く。  故に「伝え方」が極めて重要になる。 + (例)    『刑事ジョンブック』はイメージ(トーン)から伝えていく。     アーミッシュの共同体のゆったりといしたイメージ。    それは物語の展開につれ、警察の世界の乱暴さとの対比を描く。 + イメージの他に、登場人物、場所、舞台、時代も伝える必要がある。  が、それらを伝えるだけでは物語は始まらない。  物語を始めるためには、カタリスト(きっかけ)が必要である。 + カタリストは大きく三つに分類できる。 1: 事件・事故・喪失   (殺人、窃盗、行方不明、等々)   2: 新しい情報・葛藤  (昇進や転勤の告知、病気や妊娠の宣告、習い事を始めたい等々) 3: 状況説明  (主人公を取り巻く状況を     丹念に説明すること自体をカタリスト化。   「主人公は失業中の俳優、オーディションをいくら受けてもダメ」   「主人公はいろんな女の子からモテモテ」) + イメージ、情報を伝え終わり、カタリストも与えた。  しかし、もうひとつセットアップにはかかせないものがある。  それは「セントラルクエスチョン」の提示。 + セントラルクエスチョンとは、  「クライマックスで解答を示される、物語を通じての大きな疑問」 + 例えば殺人事件がカタリスト、主人公が刑事なら、  「主人公は、事件を解決できるか」がセントラルクエスチョン。  病気の告知がカタリスト、  主人公が“恋人と破局寸前だったキャリアウーマン”なら  「主人公の病気は治るのか、   病気は彼女の人生にどんな影響を与えるのか」がCQ。  失業中の俳優〜〜などの状況説明カタリストなら、  「彼はどうやって仕事を見つけ、   それによりどんな人生を切り開いていくのか」。  モテモテ主人公状況説明なら、  「このモテ男は、どのヒロインとどんな恋をしていくの?」  がCQとなる。 + 上記のように、CQは、「示して与える」のではなく  「自然と、受け手の胸に浮かびあがってくる」ような形もアリ。  しかしながら、  『セットアップが終了しても、   セントラルクエスチョンがわからない』 (「主人公は一体なにをどうしたいの?」と受け手が戸惑ってしまう)  場合、そのお話に興味を持ち続けてもらうことは、おそらく厳しい。 ―――――――――――――――― <アクト1> + セットアップで、  「この物語は何を描くものであるか」を過不足無く示せた場合、  そこから物語はアクト1へと突入していく。   + もちろん「物語が何を描くか」を伝えるまでに、  もっとゆったりとした時間をかける物語も数多存在する。  (興行性より芸術性を優先させたものなどに、特に)  しかし、基本的に、   『セットアップ完了までにかけた時間と、   物語の構成が破綻する可能性とは、正比例する』  ゆえに、セットアップをタイトにすることは極めて重要。 + アクト1は、セットアップの展開を引き継ぐ。  引き継いで、より深めていく。 + セットアップがうまくいっていた場合、  受け手は「もっとよく知りたい」よ思ってくれている。  <登場人物はどんな人か>  <どこから来たのか>  <何に興味を持っているのか>  <どんな人間関係を築いているのか>   <どんな葛藤をかかえているのか>   <どんな敵対者を持っているのか> 等々 + 簡単に言えば、その疑問を埋めていくのが、  アクト1の役割。 が、単純に説明するのでは、  100%飽きられるし、つまらない + ので<イベント(ビート)>を適宜  叩き込んでいくことが必要になる。 + (例)刑事ジョンブック >ジョンブックはサミュエルに容疑者を見せる >ジョンは、サミュエルの滞在延長の手配をする >ジョンは、サミュエルに面通しさせる >ジョンはサミュエルに人相写真を見せる >サミュエルはマクフィーの写真を目にし、彼が殺人犯だとジョンに告げる >ジョンは、その情報を警察本部長ポールに話す >マクフィーがジョンを殺そうとする。(マクフィーは誰から、“ジョンが彼を殺人犯であると知った”との情報を得たのか?)――ジョンは、ポールが殺人に関与しているのだと悟る <<↑このイベントが第一ターニングポイント>> +「イベントが発生し、それに取り組む→乗り越える」 というプロセスを経るごとに、 「受け手が知りたいと思っていることが、自然と伝わっていく(描写される)」 ――ようになっていれば、理想的。  それを重ねた上に、 『物語がガラリと転回する大きなイベント、   イコール、第一ターニングポイント』を迎えさせる。 ―――――――――――――――― <ターニングポイント> + 上記、ジョンブックの例に見られるように、 「味方だと思っていた人が実は敵だった」的な、 物語の進捗を大きく転回させるポイントが、 「ターニングポイント」 + ターニングポイントの主たる目的・機能は以下  ・ ストーリーを新しい方向へと向かわせる  ・ セントラルクエスチョンを、受け手に再確認させる   (どうやればそれが解決できるのか、    予想を覆し、もう一度考えさせる)  ・ 主人公の、「主人公としての性質」を見せる    (決断や行動、あるいは危機への対処によって)  ・ ストーリーを再加速させる    (一定のテンポで展開されつづける物語は、     受け手にとっては「減速してる」と感じられてしまう)  ・ 舞台(場面)を大きく変化させる。     ・ 受け手が物語へと注ぐ視点を変化させる + 優れた物語は、ターニングポイントが明確  自分の好きな作品の、  「どこが第一ターニングポイントか」を  意識して見るだけでも勉強になる。 ―――――――――――――――― <第2ターニングポイント> + セットアップをし、アクト1で基礎をかため、  第1ターニングポイントでそれをひっくり返し、  アクト2で深めた話を、  『クライマックスまで一気に持っていく』のが、  第2ターニングポイントの役割 + 第2ターニングポイントの性質は、 『仕掛けられていた爆弾の時限起爆スイッチが入れられる』  というキーワードでくくれるかもしれない。 + 「爆弾はあそこに仕掛けられていたのか!」    (伏線の回収)  「スイッチが入れられてしまった! 爆発まではあと10分!!」   (危機の明確化)   「それまでに悪党を倒しヒロインを救わなければ!」   (主人公が解決すべきこと=セントラルクエスチョンの再提示)  ――という感じに、  「問答無用で、一気にクライマックスへと物語を運ぶ」  のが、第2ターニングポイント。 + 第2ターニングポイントを2ブロックにわけることも多い。  <悪いニュース><起死回生の一手>という風に。  (悪いニュース)  「お前さんの目はもう限界だ。   あと一発でも顔面にパンチを受けて見ろ。   失明しちまうことはまちがいなしだ」    (起死回生)  「だが、ボディー攻めがやっと効果を示してくれたぜ。   やっこさんの足が止まりはじめた。   もう少しだけ頑張れば、   あのフィニッシュブローも当たるようになるだろう」 + 言い換えれば、  「主人公が、物語中で最もシリアスな決断を迫られるポイントが、   第2ターニングポイント」   その決断のための判断材料が悩ましければ悩ましいほど、  「決断の結果を見届けたい!」という気持ちは高まり、  クライマックス=アクト3は盛り上がる。 + つまり、第2ターニングポイントの明確化に失敗すれば、   クライマックスが無いまま、   物語はエンドロールへと到達することになってしまう。  (もちろん、そのような事態は原則、回避すべき) ―――――――――――――――― <クライマックス-エピローグ> + クライマックスは、映画でいえばラスト1〜5分前ほどに。  早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。 (*第2ターニングポイントとクライマックスとの間にあるのが、  アクト3。ここは、息を止めて駆け抜ける感じで、  一気に物語をクライマックスへと持ち上げていくべきパート) + クライマックスとは  「セントラルクエスチョンが解消される瞬間」    つまり  「刑事は犯人を捕まえられるの?」    →「犯人逮捕がクライマックス」  「マーティーは元の時代に帰れるの?」    →「元の時代に帰った」  「人喰い鮫を退治できるの?」    →「退治した」 が、クライマックス。   + クライマックスが終われば、その物語は基本  「もう語るべきを持たなく」なっている。  ので、エピローグはダラダラさせない。   「彼の物語」を終わらせた主人公はもう主人公ではなく、  家にかえって日常を過ごすべき存在になっているのだから。     もし、解消すべきサブプロットなどを残しているのなれば  それを速やかに解消し、それがなければ、可及的速やかに。  「物語が終わった」以上は、迷わず、未練なく、 『エンドマークを打たねばならない』。 ―――――――――――――――― <オープニング> + 映像作品の始め方には3つの方法がある 1) タイトルから始める    →    配給会社クレジット>製作会社クレジット>タイトル画面>物語    みたいな始めかた。    1950年代以前の映画はほぼすべてこのスタート方法 2) クレジットがかぶさったイメージやアクションから物語を始める    →    羊達の沈黙、ジョーズ、危険な情事等。    クレジットがかぶってる間に物語本体が始まったりはしないが、    かぶせている間のイメージで雰囲気や情報を与えている。 3) プレクレジットシークエンス(アバンタイトル)を使う    →クレジットの前に、2〜3分程度の短いシーンを挟む始め方。    1980年以降、急速に増えて発展した。 + アバンタイトルの使い方一例、   『ブロードキャスト・ニュース』    子供たちを登場人物として紹介   ↓   タイトル   ↓   子供たちがおとなになり、放送ジャーナリストになったところから   ストーリースタート   +  アバンタイトルを長くとり、状況のセットアップなどを済ませて   しまうケースもある   ( 『ウォー・ゲーム』 『7月4日に生まれて』)など +  ただし、いかに長いアバンタイトルであっても、    『タイトルクレジットが終わる前に、     ストーリー本体を初めてはならない』 + クレジット部分を考えるのは、基本、ライターのしごとではない。  が、アバンタイトルを使いたいのであれば、それはライターのしごと。  その場合には、タイトルクレジットをふくめての構成を監督に  伝えることが大切になる。 ―――――――――――――――― <ミッドポイント> + ミッドポイントは、すべての脚本/作品に存在するわけではない + ミッドポイントは、文字通りおはなし全体の中間付近に存在し、  「おはなしを前半分と後ろ半分に分割する」役割を持つ + 物語の中でもっとも多くのボリュームをもち、 故に最も  「テンションを維持してもらいつづける」ことが困難な  アクト2の構成は、ミッドポイントを設けることにより  メリハリをつけやすく(よって再構成しやすく)なる。 + なぜならミッドポイントは、脚本全部を2分割すると同時に、  アクト2自体をも分割してくれるから。    + ミッドポイントの役割は、つまり、  「ミッドポイント以前の方向を明確にし」  同時に  「ミッドポイント以降の方向性を変化させる」 こと + ミッドポイントが明快な作品は、  ミステリやスリラーに大きく見られる。   『危険な情事』 『逃亡者』 『羊達の沈黙』  他ジャンルだと、   『トッツィー』 『shall we ダンス?』 等々。 + ミッドポイントは、ターニングポイントのように派手ではない。  注意しないと気づかない。  例えば、「羊達〜」では、レクターがメンフィスに移されるシーンが  ミッドポイント。   『Shall we〜』では、杉山がパートナーと組んで、   ダンスコンクールへの出場を決意するシーンがそれ。 + 【ミッドポイントとターニングポイントを混同してはならない】   ターニングポイントは意識的に設け、   それによりきっちりと構成された物語から、   ミッドポイントは自然と浮き上がってくる――みたいのが理想。 + ミッドポイントが非明確でも、面白い物語は数多存在する。   ミッドポイントにこだわりすぎておはなしを崩したら本末転倒。      ―――――――――――――――― <構成について> + 三幕構成を学ぶための最高の教材になる作品は   『刑事 ジョン・ブック』 + かなり良い教材となりうる作品群は、   『許されざる者』 『逃亡者』 『殺したい女』    『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 『トッツィー』など。 + 傑作とされる作品でも、  たいがいはどこか構成上の問題を持っているものである 「セットアップに関してよくある問題」 → ・物語がイメージから入っていない   ・主人公に焦点があたる(主人公の物語が動き出す)のが遅すぎる      例: 『蜘蛛女のキス』 「アクト1に関してよくある問題」 → ・第一ターニングポイントを迎えるのが遅すぎる    (=アクト1が長すぎる)    例:  『レナードの朝』 「アクト2に関してよくある問題」 → ・第二ターニングポイントが遅すぎる     (=アクト2が間延びする)   ・第二ターニングポイントが早すぎる!    (=アクト3,解決部分が長くなりすぎる)       例  『インドへの道』  『カラーパープル』 ・ セットアップ→アクト1→アクト2→アクト3(解決)   には、すべて適正な長さがある。   長すぎればダレるし、   短すぎれば物足りない(あっけなさを感じる) ・ 適正なボリューム感のひとつの目安は、   120分映画で考えた場合      セットアップの長さ    15分   アクト1の長さ      30分   アクト2の長さ      45分    アクト3の長さ      20分   クライマックスの長さ   5分   レゾリューションの長さ  5分 ――とか、そんな感じ。   ――――――――――――――――   【この章のまとめ】 ・ 脚本の構成を見直すために、以下のチェックを □ イメージを与えるとこをから始まっているか? □ そのイメージは、物語をつかみやすくする手助けをできているか □ 物語開始のための、明確なきっかけはあるか □ そのきっかけは劇的で力強いか □ セリフではなく、行動で表現ができている部分が多いか □ セントラル・クエスチョンは明確か。   それはクライマックスと直結しているか □ 各ターニングポイントで、それは繰り返し問いかけられているか □ 第一ターニングポイントは明確か   それはアクト2を導いているか □ 第二ターニングポイントは明確か   それはアクト3→クライマックスを導いているか □ クライマックスはセントラルクエスチョンの大解決になっているか □ エピローグが長すぎないか ―――――――――――――――― 【サブプロット / サブプロットの役割】 (↑で説明した、  物語の骨子となるストーリーライン、  およびそのライン構成に必要不可欠のイベント群  =「メインプロット」) + メインプロットの中の主人公は、  目標を(セントラルクエスチョンを解決)達成するために忙しい。    + しかしながら、その合間に、恋に落ちたり、習い事を楽しんだり、 買い物をしたりできる。   そうした副次的なイベント群で組まれるストーリーラインが、  「サブプロット」 + すぐれたサブプロットは、メインプロットと密接に関係し、  それを補強する。   サブプロット中の習い事で身につけたスキルが、  メインプロット上の障害突破の役に立ったり。 (「スキル自体」はメインプロットに必要不可欠でも、 「そのスキルを身につけるイベントの描写」は必要不可欠ではないので、 上記イベントはサブプロットに含まれるものとなる) + サブプロットでの恋のお相手が、  メインプロットで殺人事件の目撃者になったり、とか。 + サブプロットで主人公の怪我を応急処置してくれた人が、  実は主人公が逮捕すべき対象だった、とか。 + また、すぐれたサブプロットが、  メインプロットの「テーマそのもの」を補強することもある。   テーマが「真実の愛」という作品で、  サブプロットでは、主人公の求めるものとは違う、  しかしまぎれもない愛の姿を描いていく……とか。    + サブプロットはどのようなものでもかまわない。  (恋愛がメインプロット上に無い物語において)  最も頻繁につかわれ、よく機能しやすいのは「恋愛」 + メインプロットではマッチョな探偵が、  サブプロットでは思いもかけない傷つきやすさを見せる……  等、主人公を多面的に描き出す意味でも、サブプロットはとても有用。 + というかむしろ  「物語の面白さ」を決める最大の要因のひとつが、サブプロット。  例えば、「大会で優勝を目指す」という手垢にまみれまくった  メインプロットであっても、サブプロットに大きな魅力があれば、  その作品は「目新しく・面白い」ものとなりうる。 + メインプロットは、セントラルクエスチョンが解決した時点で、  興味の対象から開放される性質のものであるとも言える。   ゆえに、「作品中、最も心に残ったエピソード」が、  サブプロット中のものであることも珍しくない。 ―――――――――――――――― <いくつのサブプロットが必要か?> + ほとんどの映画には1〜2のサブプロットが。  映画によっては5〜6ものサブプロットが組み込まれている。 + サブプロットが無い  → おはなしが直線的になりすぎる  サブプロットが多すぎる →おはなしが遠回りしすぎる ――可能性を、それぞれ高める。 + サブプロットが効果的な映画の例   『トッツィー』、 『刑事ジョン・ブック』、   『バック・トゥーザー・フューチャー』など。  また、殺したい女』では、たくさんのサブプロットが使われている。 + 上記の映画たちの中で、  物語(メインプロット上のストーリー)が一方向に強く進み始めると、  サブプロットが機能し、物語の進行方向を変化させる。 + 良いサブプロットは、物語に「驚き」「ユーモア」といった  アクセントを加え、同時にストーリーの方向を変える ―――――――――――――――― <サブプロットの構成 1> + メインプロットと同様に、 サブプロットにも   ビギニング-ミドル-エンド という構成がある。 + 優れたサブプロットであれば、その中に明快な  セットアップ、ターイングポイント、クライマックスを  見つけることも出来る。 + メインプロットのターニングポイント直近に   サブプロットのターニングポイントも重ねれば、  「そこで物語が転換する」ことおを強調できる。 + メインプロット中の中だるみしそうなところ  (アクト2の中央)などにサブプロットのターニングポイントを  置けば、物語のアクセントにもできる。 + 刑事ジョンブックでは、サブプロットが極めて重要な働きを見せる。 + 同作のメインプロットは  『ジョンは殺人犯を捕まえることができるのか?』  というセントラルクエスチョンを中心に展開される。 + 同作の最大のサブプロットは、  『ジョンとレイチェルの関係性はどうなっていくのか?』  というロマンティンクなクエスチョンを中心に展開していく。 + サブプロットのセットアップは、  メインプロットのアクト1中に発生し、  そこでジョンとレイチェルは出会う。  + サブプロットの第一TPは、  レイチェルがジョンの看病をし、  ジョンが彼女の存在に気づくシーン。  ここは、メインプロットのアクト2の始め  (=メインプロットの第一直後)である。 + サブプロットの展開は、  そのままメインプロットアクト2を通して継続され、  二人の関係は深まっていく。 + サブプロットの第二TPは「ふたりがキスをする」  シーンであり、  『ジョンとレイチェルはどんな関係を築いていくのか』  というサブプロットのクエスチョンをもう一度明確化する。 + サブプロットのクライマックスは、   レイチェルの命を救うため、ジョンが銃を捨てるシーン。  この直後、ポールは逮捕され、  メインプロットのセントラルクエスチョンは解消される。   + サブプロットの解決は、ジョンが別れを告げるシーン。  この直後、ジョンは帰宅し、すべての物語を終える。 + このように 『刑事ジョンブック』のサブプロットは、  メインプロットと極めて密接に連携し、  ときとして、あたかもメインプロットであるかのようにふるまう。 + が、このような、メインプロット-サブプロットの密接化は、  「よほど腕っ節がないと失敗する」  その理由は  「話の興味が分散されてしまい、ストーリーの勢いが失われる」から。 (ジョンとレイチェルの恋に大きすぎる興味がいってしまえば、  殺人事件の話が邪魔な要素になってしまう。  その逆もまた真) + ジョンブックでは、  「ジョンが相棒に電話をかけ、街に戻れる状況かを聞く」  「ジョンの相棒がポールによって尋問される」  などのシーンを巧みに挟み込み、  サブプロットがメインに見えている状況下でも、  メインプロットへの興味と物語の緊迫感とを維持し続けている。 + そして、アクト2の終わり(メインプロットの第二TP)において  「ジョンの相棒が殺される」という強烈なイベントにより、  メインプロットとサブプロットは強制的に終わりへと向けられ、  観客の興味も一点へと絞りこまれていく + このように、  “非常にボリュームのあるサブプロット”を、  全く別のアプローチで上手に仕上げているのが、  『バック・トゥー・ザ・フューチャー』  次項では、その構成について考える ――――――――――――――――  <サブプロットの構成 2> + 『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のサブプロットは、  ロレインとジョージ・マクフライ(マーティの父母)  の関係性を扱うもの + このサブプロットも、以下の明快な構成を持っている <セットアップ〜アクト1>  →マーティのタイムスリップ。   ロレインとジョージの劇的な出会いが失われ、   ロレインはマーティに夢中になってしまう    Q:「ロレインとジョージは無事結ばれることができるのか?」     が発生 <第一TP>  →マーティーは宇宙人に変装し、   ロレインをダンスに誘うように、ジョージに強いる <アクト2>  ジョージがロレインの気をひこうとして奮闘。  しかしさっぱり思いつかない <第二TP>  →マーティ、状況を逆転させるアイティアを思いつく <アクト3>  →いろいろあるが、計画はうまくいく <クライマックス〜解決>  →ジョージとロレインはキスをする   (恋に落ち、結ばれていくことが示される) + このサブプロットは、  「ジョージとロレインが結ばれなければ、   その息子であるマーティも消滅してしまう!」   という明快な危機を内包しているため、   『メインプロットにおけるCQ、   「マーティは未来に無事に戻れるか?」』   と非常にうまく重なり合っている。 + ので、サブプロットとメインプロットは決して邪魔をしあわず、  むしろお互いを強め合う。   これも、見事なサブプロットの活かし方である。 + 「数多くのサブプロット」(5つ!)を上手に活かしている作品は、   『トッツィー』。次は、それについて考えてみる。 ―――――――――――――――― <サブプロットの構成 3> + 『自己表現がしたい!  という希望から、売れない役者マイケルは、  ドロシーという仮面をかぶり、その希望を達成する。  しかし、ドロシーという仮面の出来が良すぎたがため、  さまざまなドラマが産まれる』――というのがトッツィーの骨子。 + ひとつのメインプロットといつつのサブプロットとで  トッツィーは構成させる    1:マイケルとジュリー(ヒロイン)  2:マイケルとサンディー(マイケルの古くからの女友達)  3:マイケルとレス   (ジュリーのやもめの父親で、ドロシーに恋をしてしまう)  4:マイケルとブリュースター(好色男。ドロシーを落としたい)  5:ジュリーとロン(ジュリーの恋人。ディレクターの立場を利用) + トッツィーのメインプロットは以下 (セットアップ)  マイケルは仕事を取れない。 (1TP)  マイケルは女装し、「ドロシー」として仕事を得る (展開)  ドロシーは大成功をおさめる (2TP)  ドロシーは、契約の更新を断ろうとする。  が、売れ売れなので許してもらえない。 (クライマックス)  ドロシーは、自らがマイケルであることを明かす。 + マイケルとジュリーのサブプロットは以下 (セットアップ)  ドロシー(=女装マイケル)は初めての仕事の日、  ジュリーと出会い、魅了される。 (1TP)  ジュリーはドロシーをディナーに誘う。  友情の始まり。 (展開)  ドロシーとジュリーは親友に。2人で田舎に。  ドロシーはジュリーにロンと別れるように勧める。 (2TP)  ドロシーはジュリーにキスしようとする (クライマックス)  ジュリーは、ドロシーを見ようとしない。 + メインプロットでドロシーは契約を断ろうとするのは、  ドロシー=マイケルがジュリーに恋をし、  「もう女性でいたいとは思わない」から。 (ジュリーに恋をしたマイケルは、自分が男性であることを  明らかにし、告白をしたい。  しかし、契約はそれを許さない) + このように、メインプロットと全てのサブプロットは、  明快に絡み合っている。 + 主要なサブプロット  (例:ドロシーとジュリー)は、明快な構成と  十分なボリュームを持っている + 主要ではないが必要なサブプロット  (例:ジュリーとロン)は、少数エピソードのみで語られる + 全てのサブプロットを重くしてはいけない。  「触れておく」だけで十分に観客の興味を引け、  物語の問題を解消できるのであれば、  サブプロットはそのように扱うべき。  サブプロットが、メインプロットの邪魔をしては本末転倒。   + サブプロットが3つ、というパターンの物語は多い   メインプロット  + サブプロットA:登場人物の深い人間関係(恋愛等)  + サブプロットB:ユーモアを与える(コミカルな問題発生)  + サブプロットC:アクセント要素(メインプロットを強調) + サブプロットが巧みに用いられるのながら、  メインストーリーには深みが加わり、観客の状況理解も進む。 + しかし、サブプロットが機能しなければ、メインプロットはぼやけ、  物語は混乱に陥り、理解が難しくなってしまう。 ――――――――――――――――」  <サブプロットの問題> + 脚本が抱える問題の多くは、サブプロットが原因である。 + サブプロットの問題は、以下に分類出来る 1:「サブプロットが構成を欠いている」  →長いのに構成がはっきりしない=何が言いたいのか伝わりづらい。   そこでモヤってしまうと、おはなし全体もモヤる。 2:「サブプロットがメインプロットと交錯しない」  →サブプロットがメインプロットとほとんど関わりをもたないと、   そのサブプロットが良くできていても、   「あるおはなしの中に、    まったく別のおはなしが一本まぎれこんでいる」   という状態を産んでしまう。   それが産むのは、興味の分散と混乱とだけ。  3:「サブプロットが正しい場所に配置されていない」  →冒頭にサブプロットだと、   「観客はそれをメインストーリーと誤解する」   結末にサブプロットだと、   「蛇足」   どんなによいサブプロットも、配置場所次第では   メインプロットの邪魔しかしなくなってしまう。 ―――――――――――――――― <この章のまとめ> + サブプロットの働きをチェックするときには――   1- それをメインのストーリーラインから切り離し、構成を見る   2- それと、メインのストーリーラインとの関連を見る  ――の二段階で + サブプロットに関するチェックリストは、以下  ・ サブプロットはいくつあるか?  ・ もし3〜4以上あるなら、削れないか?  ・ そのサブプロットは必要か?  ・ それがストーリーに付け加えているものは何か?  ・ メインのストーリーラインと交差しているか?  ・ サブプロットのクライマックスが、    メインストリーラインのクライマックスよりも    著しく遅延していないか  ・ 主要なサブプロットに、明確な    「セットアップ」「ターニングポイント」「クライマックス」    が存在しているか + 上記を満たし=  メインストーリーラインと明確な関わりを持ち、  ストーリーに付加価値をあたえ、  構成がはっきりしている、  サブプロットをストーリーに組み込めているなら、  脚本が「有意なもの」に仕上がっている可能性は高くなる。」   ―――――――――――――――― 【アクト2 / その勢いをどう持続させるか】 + 映画でいえば、45〜60分程度にも及ぶ、  「最もボリュームがあるアクト」となるのが、アクト2 + ゆえに、アクト2がうまく運ばなければ作品は退屈そのものとなり、  物語への評価はガタ落ちしてしまう + アクト2における問題のほとんどは  「焦点がぼやけ」「物語が停滞する」ことにより発生する + その典型的な原因は、以下の4つ  1: 作中に、ストーリーを複雑にするだけで、     面白くするためには機能していない要素がある  2: 登場人物が行動を起こさず、会話に熱中  3: ストーリーの展開が早すぎるため、ついていけない  4: ストーリーの展開が遅すぎるため、見ていられない + アクト2に至るまでの部分。  つまり「セットアップ」「アクト1」「第一ターニングポイント」が  十分に機能している場合、それはもちろん、  アクト2を推し進めるための強力た推進剤となってくれる。  が、これだけでは足りない + 長くて一時間、観客の興味を引くつけるためには、  次項以降に列記するような各種要素が必要となる。  (アクション、バリア、コンプリケーション、   リバーサル、シーン・シークエンス) ―――――――――――――――― <アクション・ポイント> + 「脚本の勢い」≒「シーンの連続性」  “あるシーンが終わるときには、   すでに次のシーンへの期待が高まっている”  状態が継続的に生まれていれば、  その脚本には「勢いがある」。   ブツぎれで、シーンに入るたびに  「どういうこと?」となってしまう脚本は、  勢いを持っていない。 + シーンの中に「原因と結果」を設けるように  すると、この「連続性」は作りやすい。  「Aという問題が発生、Bというアイテムで解消」  「アイテムBがナニモノかに奪われる!   →Cさんの強力でその謎を解消」  「Cさんが主人公に想いを寄せて!?」    ――みたいな感じに。 + 原因と結果、をハッキリとしめすための方法のひとつに、  <アクション・ポイント>の設置があげられる + ここでいうアクションとは  「そのアクションにより、   他キャラクターのリアクションが引き起こされる全ての行動」  を意味し、銃撃戦やカーチェイスのことを意味しない。  (が、銃撃戦の類も、もちろん「広義のアクション」に含まれる。 + 例(トッツィー  1:マイケルはサンディーを通じ、   ソープオペラの仕事があるとの情報を得る <アクション>  ・マイケルはその仕事を得るため、   女装してオーディションに望む <リアクション>  2:制作サイドは、   女装したマイケル(ドロシー)に仕事を与える<アクション>  ・仕事を通じ、   ドロシーはジュリーに出会い、好感を持つ<リアクション>  3:ドロシーとジュリーの親交が深まり、   ジュリーはドロシーをディナーに招待する <アクション>      ・ドロシーはジュリーに恋心を抱くようになる<リアクション> ――このように、1,2、3は、全て  「アクション-リアクション」という「原因と結果」をもち、  かつ「1の結果は2の原因に」「2の結果は3の原因に」という  明快な連続性を持っている。   このようににアクション、原因・結果が機能し、  シーンが連続性を持てば、アクト2はダレず、勢いあるものとして  見てもらえることになる。 + 今までに説明済みの「第一・第二ターニングポイント」や  「クライマックス」ももちろん<アクション・ポイント>であるし、  後述のバリアやコンプリケーションも同様 + アクト2は大変に長く、持続的な勢いを必要とするため、  「連続性を持ったアクションポイント」を活かすためのシーンとして、  もっとも好適 + が、全てのシーンを  連続性を持ったアクションポイントとして連結させてしまうと、  その物語は「極めて単純な、深みを持たぬ一直線の物語」に  なってしまいやすいことも事実。  (書きたいものが単純明快な物語なら、もちろんそれもあり) ―――――――――――――――― <バリア (障壁)>  + バリアとは、問題解消を妨げる障壁のことである + バリアは、文字通りの「壁」なので、  それ自体は物語を決して推し進めない。  むしろ、物語を止め、受け手にストレスを与えてしまう + しかし、バリアは「それが解消されたときのカタルシス」を  物語に与えられることが出来る。 + (上手な例: ジョーズ  ・主人公、クイントは人喰い鮫を釣り上げようと試みる(アクション    →鮫は釣り糸を食いちぎり逃げる(バリアによる失敗、足踏み  ・銛を打ち込もうとする(アクション  →ゆうゆう逃げ去られる(バリア  ・檻を仕掛ける(アクション  →叩き壊される(バリア  ・酸素ボンベをサメの口に投げ込む (アクション  →鮫撃退! (バリア突破→物語を強烈に推進!! + つまり、バリアは、物語という矢を加速させるため、  一度大きく引き絞られる弓弦であるとも言える。   それ自体は物語を進めず、時とし引き戻してさえしまうが、  バリアを突破することもカタルシスは強烈なリアクションとして  物語を推し進めてくれる。 + が、結局のところバリアは停滞そのもの。  その乱用は物語を止め、マンネリ感と退屈とを産む。 + バリアを効果的に活かすためには  「控えめに」かつ「その後のテンポアップを意識的に」  使っていくことが重要。 ―――――――――――――――― <コンプリケーション> ・ コンプリケーションとは、すぐには精算されないアクションのこと。   前借りと精算――   より一般的な言葉でいえば、ある種の“伏線と回収”のこと。 + アクションが、「物語を加速させる」   バリアが 「物語を止める」なら、  コンプリケーションは「物語をヒネっておく」こと。 + コンプリケーションをあたえられた物語の方向性は変化しないし、  そのことにより停滞も加速もしない。ただ、受け手には、  「ヒネリという気がかり」が残される + そのヒネリをある時点でパっと解消すると、  受け手は「気がかりが消える爽快感」を覚え、そのことにより  物語への注意が高まり、結果、物語は推進力を得る。 + これが、  コンプリケーション(前借りと精算)の基本構造 + 例)トッツィー  ・マイケル(=女装してドロシーになっている)は、   仕事を求めてオーディションへ。  ・そこでミスをしてしまうが、そのミスを、   同じオーディションを受けていた女性(サンディ)がフォロー。   ライバルであるにもかかわらずオーディションへのアドバイスまで。  ・女性、立ち去る。   マイケルは=ドロシーは、その後姿をじっと見る   <コンプリケーションのスタート/前借りの発生>  ――このコンプリケーションは、  「男性が女性に心を奪われる」というイベントに  1:オーディション会場での出会い    =追いかけるわけにもいかないし、再会も約束されない  2:マイケルは女装中    =サンディは、ドロシー(マイケル)を女性だと思い込んでいる  という要素をくわえることで成立し、かつ  3:マイケルはドロシーとして職を得る    =正体を明かすことは、失職の危機につながりかねない というさらなる複雑化を加えられる。  これは、当然「容易には解消できないコンプリケーション」となり、 この前借りの精算 (マイケルが契約の更新を望まず、正体を明かし、  ドロシーにプロポーズする) は、トッツィーの場合は、そのまま 「セントラルクエスチョンの解消=物語のクライマックス」と 重なりあう。 + コンプリケーションと、その他のアクションポイントとの  明快な違いは、以下の点 1:コンプリケーションのためのアクションは、すぐには精算されない 2:コンプリケーションは物語の方向性を変化させず、止めもしない。   ただ「物語へ、明確な(意識に残る)ヒネリ」を与える 3:コンプリケーションは、主人公の内的欲求へ影響を与える。   (コンプリケーションは、解消されるため、    主人公に思考と変化とを強いる)    ―――――――――――――――― <リバーサル(逆転)> + リバーサルは、アクションポイントの中でもっとも強烈に働く。 + リバーサルは、ストーリーの方向を180度転換させる。  肯定から否定へ。後退から前進へ。あるいは、その逆に。 + <ゴーストバスターズ>   超常現象の研究者である主人公トリオは、大学を首になる   >(逆転)>銀行から融資を受け、ゴーストバスターズを創業! + <ジョーズ>   殺人鮫を捕まえた! お祝いパーティ!!!   >(逆転)>新たな被害者! 捕まえたのは殺人鮫じゃなかった!  + 「確実な死→奇跡的な復活」   「シェルターの中に避難。ホっ→そこにもモンスターが!」   なども、典型的なリバーサル。 + 「安全から危険」「絶望から復活」など、   リバーサルは、   「状況をひっくり返すことにより、新しい物語展開を強いる」手法 + リバーサルの多用は、   マンネリ感(陳腐化)と混乱とを産む要因となる。   ので、1シナリオ中に1〜2個以上盛り込むのは危険。 ―――――――――――――――― <シーン・シークエンス> + 複数のアクション・ポイントが連続性を持ってつながり、  ひとつのまとまりとなったものがシーン・シークエンス。   いわば、ミニストーリーライン。 + 言い換えれば、シーン・シークエンスは  「セットアップ、ディベロップメント、クライマックスを持つよう    構成された、アクションポイントの連携」 + 実例、 『風とともに去りぬ』のアトランタの火事(およそ7分) <そこまで>  →スカーレットはレット・バトラーが大嫌い。   アトランタの街は北軍に責められ陥落寸前。    スカーレットは出産間近のメラニーの看護をしている間に、   アトランタから脱出する方法を失ってしまう。  ・セットアップ   スカーレットの使いがバトラーのもとに駆けつけ、   スカーレットたちの脱出の手助けを頼む  ・1TP   バトラーが馬車で助けに来てくれる  ・展開   火事になっている。   脱出するためのルートには、弾薬庫がある。急げ!  ・2TP   弾薬庫前! 弾薬庫にはもう火の手が!!  ・クライマックス   炎をくぐり、なんとか通過!   通過しおえた途端、弾薬庫は爆発炎上!  ・レゾリューション   スカーレットたちを安全なところまで送り届け、   バトラーは一人去っていく(=新しい展開のセットアップ) + シーン・シークエンスは他のあらゆるアクションポイントと同様、  ストーリー中のいかなる部分でも使用することが出来る。   ボリュームは3〜7分が多いが、もっと長大なものもある。 + シーン・シークエンスをアクト1に置けば、  セットアップを魅力的なものに出来る可能性が高まる。     アクト2に置けば、物語の深みを強められる可能性が高まる。 + シーン・シークエンスの名人は、スティーブン・スピルバーグ。  「シーン・シークエンスをうまく使ってストーリーに勢いを与える」  方法を学ぶためには、   『バック・トゥー・ザ・フューチャー』 『ジョーズ』   『シンドラーのリスト』などは良いお手本になる。 ―――――――――――――――― <“勢い”について> + (どこまでがセットアップでどこからがアクト1でどこが   ターニングポイントか等の)構成がはっきりしていない物語は、   勢いを失いやすい。 + また、あるシーンがメインストーリーラインから  完全に外れてしまっていれば、見ている側を戸惑わせ、  物語は勢いを失ってしまう。   + 物語が勢いを失っているとき、例えばアクションを追加しても、  得てして逆効果にしかならない。   銃撃戦、カーチェイスのような派手なアクションであってさえ、  「そのシーンがどんな意味を持つのか」が伝わらなければ、  物語をスローダウンさせる要因にしかならない。 + “勢い”はペースの速さ、アクションの密度『ではない』。 + “受け手に、物語に対しての興味を持続させる力”が“勢い”。 + それを維持する最良の方法は、  「受け手を置いて行かない」  「受け手と物語を共に歩ませる」  こと。そのペースは早くても遅くてもかまわない。 + そうしていくため、もっとも重要なのは   『構成が明確であり』かつ 『退屈でない』こと。  つまり、ここまでで学んできた諸要素を適切に活用し、  ライティング/リライティングをし、脚本自体を整えること。 ―――――――――――――――― <この章のまとめ> + アクション、バリア、コンプリケーション、リバーサル、  シーン・シークエンスといったアクション・ポイントは、  必ずしも物語に盛り込まなくてはならないものではない。  というかむしろ、チグハグなアクション・ポイントを盛り込めば  ストーリーラインと受け手とは混乱し、物語は勢いを失う + アクション・ポイントは「盛り込む」のではなく  「自然とそう出来上がっている」のが理想。   ストーリー上必要不可欠のアクションポイントは、  必ず機能するアクションポイントとなる。 + アクションポイントをより深く理解するためには、  まず「より知る」ことが重要。   ・ 『逃亡者』を見て、リチャード・キンブルがいくつのバリアに    ぶちあたるかを数える   ・同様に、「作中にリバーサルやコンプリケーションがあるか」   といったことを意識しながら観劇する  ――などが良い練習となる。 + 深い理解のもとでなら、  「単調な脚本にアクション・ポイントを自然と盛り込む」ことも  可能となる。  ・ 心霊学を研究している大学教授がクビを言い渡されるイベント    に盛り上がりが足りない  場合に、  →心霊学研究者の大学教授がついに本物のゴーストを見つける!    リポートをまとめよう!と意気揚々なところでドアをノックされ、    失職を言い渡される  というリバーサル(歓喜から絶望へ)を加えたりとか、そういう改善。 + アクション・ポイントの効果を予想するときに大切なのは、  「観客の共感度を予想する」ことである。   受け手が共感できるイベントであり、そこで大きく感情が動くなら  ドラマは勢いを増すし、共感しづらいイベントなのに大掛かりな  アクションをあてられても、シラけてドラマは減速する。 + つまり「つまらないシーンをアクションでなんとかしようとする」  のは逆効果。  “つまらないが必須”であるならむしろ短くまとめなおすことを考え、  その上で、感情に大きく訴えかけるシーンをより盛り上げた方が、  物語のメリハリ強化にもなり、全体の勢いは確実に増す。   + (チェックリスト) ------------  ・脚本中に、どのような種類のアクション・ポイントがあるか  ・それは、バリア、コンプリケーション、リバーサルのどれか。   あるいはシーン・シークエンスか  ・それはどのように使われているか  ・それは物語に勢いを与えているか  ・アクション・ポイントにより物語が脱線していないか  ・メインプロットとサブプロットはしっかりと見えているか  ・脚本中、ほんの一手間で効果的なアクション・ポイントに変化する   部分はないか?  ・キャラクター同士の会話は物語のテンポを良くしているか、   悪化させていないか  ------------ ―――――――――――――――― 【シーンを作る】 + ストーリーという構造物は、  シーンというブロックを積み上げて構築される。 + シーン内では  「ストーリーを押し進める」  「登場人物の性格を明らかにする」   「イメージをより深めていく」  「新しいアイデイアを付与する」  ――などなど、さまざまなことが出来る。 + ライターはしばしば  「このシーンでは登場人物の性格が明らかになっている」  的なことを口にする。   が、「そのシーンで、それしかできていない」ことも  またしばしばある + 『1つのシーン内では、同時に、多層的に、   いろいろなことを進め・表現できる』ことを忘れてはならない。   登場人物は対話により性格描写とストーリー推進を同時にできる。   その背景でイメージを深め、アクションの種を蒔くこともできる。   それら全てを融合し、テーマを浮き上がらせることさえできる。 + そうしたことがうまく噛み合ったシーンは、  緊張、恐怖、甘やかさ――といった「観客の感情の動き」を  引き起こすことが出来る。 + 「悲劇は、哀れみや恐れといった感情を引き起こすべきだ」という  アリストテレスの言葉は、もちろん、他のあらゆる種類の劇にも  応用できる。 + 「観客の心を動かす」ことこそが作劇の目的であるのなら、  全てのシーンは、「そうするべく」機能することを目的としなければ  ならない。 + そうするべくシーンを組むための具体的方法は、以下。 ―――――――――――――――― <シーンのアイディア> + シーンを作るプロセスに定石は存在いない。 + が、優れたシーンには、いくつかの類型がある。 + 1:優れたシーンは多くの目的を達成する      このタイプの優れたシーンは、   受け手に情報を与えながら物語を進行させる。   つまり、  「シーン中で受け手に情報を与えると同時に、   次のシーンへの“きっかけ”をも与える」。    このように連続性をもったシーンを、ストーリー・シーンと呼ぶ。  (例:トッツィー)   ・芸能エージェントのジョージは    主人公、マイケルに「誰もお前を雇いはしない」と明言    ↓    ・マイケルがドロシーとなり(女装し)ハイヒールをはいて歩く。   <「ジョージは職を得られるのか?」というクエスチョンの提示。    「誰も雇わない状況」というバリアの提示。    「ドロシーとしての行動開始」というきっかけを    シーン内で提示し、      『ドロシーとしてなら職を得られるかもしれない』という    興味を呼び起こし、次のシーンへのヒキにしている>   2:優れたシーンは主人公のキャラクター性を明らかにする    ・通常、キャラクター性の掘り下げは    サブプロットの中で行われるが、    優れたシーンは、メインプロットを推し進めながら    主人公/他キャラクターの性格の深くを描写し、暗示する。     ・つまり、各種のアクションに対するリアクション    (どのような状況でどう決断し、行動するか     プレッシャーに対してどう反応するか等)を見せることが、     そのままキャラクター性表現になるように組まれている。    ・あるいは逆に、サブプロット中のシーンで描写される     キャラクター性を、メインプロットで活用するという     方法もある。    (趣味のロッククライミングが、クライマックスで、     味方兵士の救出に役立つ、など)    ・(例 ジョン・ブック。        ジョンが家畜小屋の修理をしているシーン。        レイチェルがレモネードを持っていく      このシーンでは、     ・ジョンが器用     ・(レモネードの飲み方から)野性的であること     ・レイチェルは、ダニエルよりジョンに興味があること     ――を明示すると同時に、以下の対話によって     ふたりの関係を強め、シーンを進める)     ジョン「ダニエルは?」     レイチェル 「レモネードを飲んで帰ったわ」     ジョン 「素早いな」     レイチェル 「大工仕事ができるの?」     ジョン 「……ああ……」     レイチェル 「他には何が?」     ジョン 「殴ることさ。人をぶん殴るのがうまい」       同時に、「会話の外の言外の会話」によって、         >レイチェルはジョンに惹かれている     >ジョンは距離を置こうとしている     というそれぞれの心理を暗示し、     キャラクター性を深めると同時に、     受け手の興味のフックとしても機能している。      3:優れたシーンはテーマを探求する      ・作品は、何らかのテーマを持ち、      作品全体をもってそれを表現する。    ・優れたシーンは、物語を進めつつ     テーマを深く意識させる。    例)ジョンブック      (このシーン以前にアーミッシュの長老の、    「銃は人の命を奪う道具だ。     一度手にすれば、それは心を染める」    というセリフがある)    (ジョンの銃は、ホルスターに収められた状態で     引き出しの中にしまわれている)    (サミュエルは、レイチェルと亡き夫との間に出来た息子)    →サミュエル、引き出しを開け、ホルスターに手をのばす。     誘惑に抗しきれず銃を手にとって見たところで、ジョン気づく。    ジョン「そのまま! ……弾が入ってるんだ、絶対――」    レイチェル入ってくる。    レイチェル 「サミュエル、下へ行っていなさい。           ……ジョン・ブック、この家にいる間は           私たちのしきたりにしたがってください」    ジョン 「わかった。         これをサミュエルの目の届かないところへ」    (銃を渡す)    ・上記シーンでは、     「ジョンが銃を預けるほどにレイチェルに心を許している」     ことを描写しつつ、    「銃は人を殺す道具」(だけなのか否か)     というテーマをもう一度意識させ、考えさせる。   4:優れたシーンは、ビジュアルイメージの構築も行う    ・ビジュアルイメージの構築は、本来監督の仕事だが。    「そのシーンがどんな映像になるか」を意識しておくことは有用    ・陳腐なイメージは、物語を「ありきたり」に堕させる。        例)守銭奴のキャラクターの表現=夜な夜なお金を数えさせる、等    ・しかし、例えば     +真っ白な立派なコートを着た男、道を歩く         +目の前で子供が車に引かれる。     車は逃げる。救護可能なのは男だけ。     血まみれの子供の手が伸びてくる。     +男、手を避けて立ち去る。     高級そうなレストランに、ボーイにコートを預ける。     +ボーイ、コートにわずかな汚れを付けてしまう。     男、大激怒して、    「ヴィキューナだぞ! 何万ドルすると思ってるんだ!!」     と罵りまくる    ――とかやると、男にとって、    「コート(にかけたお金) > 人命」    であることを暗示でき、     かつ、コートの純白、こどもの血の赤が、    強烈なイメージとして男の「闇」を印象付ける      ・ジョン・ブックの冒頭でも、   「真っ黒な服だけで身を固めた人々が道をやってくる」    という強烈なイメージで、アーミッシュという集団の   特異性を示し、印象付けている    ・ 全てのシーンが複数の意味を持ち、   それが明確に観客に伝わり、物語全体を調和させつつ構成させる   ――などという作劇は、現実的にはほぼ不可能 ・ あるシーンでは、キャラクターとアクションの描写だけで手一杯、   ということも珍しくないし、それはそれで正しい ・ が、  「シーンには複数の意味・役割をもたせることが出来る」と意識し、  常にそうできないかを意識することは、  ライティング・リライティングの質をたかめるために、大変に有用 ――――――――――――――――+ <どのシーンを使い、どこに配置すべきか> + 登場人物の行動は無数に描写しうる。  朝起きる、あくびをする、顔を洗う、食事する、新聞を読む、等々 + 故に、シーンはいくらでも作れるし、   その取捨のための選択肢も無数に存在する。 + 選択に悩んだときの方針基準は、以下   『ストーリーのメリハリをハッキリさせるもの』   →あらゆるストーリーは、ストーリーの柱と呼ぶべき    ポイントを持っている。    アウトラインを書くことにより、そのようなポイント=    選択すべきシーンを選びやすくなる    ストーリーが殺人を扱うなら    1:殺人の発生    2:調査にあたるものが、手がかりを発見    3:事件の解決    ――などのシーンは必要となる可能性が高い。 <出来事は、語るより見せよ> + 物語は、クライマックスに向け進行する一連の出来事を描くもの。 + 殺人、昇進、恋人たちの逢瀬といったことは、  言葉で語るより、目に見えるカタチで示した方が素早く伝わり、  理解を助けることが出来る、  (説明よりも描写、ということ) + ストーリーをアウトラインで示す段階で、   「説明を、   目に見えるカタチ(描写)に置き換えられないか考慮する」  ことは、理解してもらいやすい物語を組むためには、大変に有用。 <単調なシーンも工夫次第> + 「絶対に伝えておくべき必要があるが、単調」というシーンが  出来てしまうことは、ままある。 +  『危険な情事』ではダンとベスが購入予定の家について、   キッチンで話し合う。     このシーンは極めて重要だが、このままだと、  -単なるキッチンでの会話-でしかないため、極めて退屈。 + そこで、同作品では、このシーンに、  「娘のエレンが、   パパのためのチャーミングなカード・トリックを行う」  というアクションを加え、シーンを実に面白いものとしている。 + このように、「退屈な説明シーン」を、  そうではないものに整え直すことが、ライターには出来る。 <受け手を導くためにシーンを使う> + 状況設定のシーンは、  受け手に、 「物語を取り巻く季節はいつなのか」 や 「監禁されている主人公と、看守が放置している鍵との位置関係」など、 種々の状況を伝える事ができる。 + 一般的に、状況設定のシーンは短い。   登場人物にアパートまで車を運転させ→居住環境を示す。   刑務所の内部を描き、外側を描くことで→独房の配置を示す。 + このようにして、ダムの大きさ(逃亡者)や、  子孫がどれだけ続くのか(ベン・ハー)や、  塔がいかに高いか(めまい)といったことを示すことが出来る。 + これらの視覚的情報は、受け手のストーリー理解を助ける。 + 「状況設定のシーンがが不十分だとどうなるか?」は、   『荒野の決闘』におけるOK牧場での決闘シーンや、   『燃えつきるまで』を見るとよく分かる。   この2つの映画では、観客は自分がどこにいるのかを見失い、   登場人物や建物や馬などの位置関係に混乱させられることになる。 <モンタージュ> + モンタージュとは、 「短いシーンの、素早く連続的な繋ぎあわせ」のこと。  この短いシーンの組み合わせのワンセット全体で、  一連の情報を伝える。 + モンタージュには、基本的にセリフはいれない。  いれるとしても、例外的に短いものを1〜2コ。  モンタージュ中には、基本、対話は入ってこない。 + 1:「散らかった部屋、ベッドの上に昼寝してる男」  2:「掃除機を手にした女」  3:「男目覚める。整頓された部屋。机の上置き手紙と料理」  →女が訪ねてきて、掃除して、料理をつくって去っていったことを、   3カットだけで素早く示すことが出来る。  1:「街頭で、空き缶を前に歌う男。声をかけるスーツの女」  2:「レコーディングルームで歌う男」  3:「タイムズ紙の表紙。男、バリっとした衣装で決めている」  →売れない歌手がスカウトされ、一夜にしてスターになったことを、   3カットだけで素早く示すことが出来る。 + モンタージュにできるのは状況説明だけ。   深みを与えたり、葛藤を描いたりは出来ない。   が、それは極めて素早く情報を伝達してくれる。 <誰の視点か> + シーンを作り上げる前段階で、<作品全体>について――  『誰についてのストーリーを物語るのか』 『誰の立場に立ち、誰に共感し、誰に注意するのか』 『(受け手は)どこまで主人公の視点を通して   ストーリーを見ることになるのか』  ――を、しっかり把握しておくことが必要。 + <視点>は、  「主人公と同じ視点(一人称)」  「何人かの視点 (一人称を複数切り替え)」  「全てを見通す視点 (三人称)」  などに設定することが出来る。 + 多くの場合、映画のような映像的作品では、  観客は「主人公との深い共感≒一人称視点」を好む傾向にある。 + ので、たくさんの映像作品が  「主人公の視点」 もしくは  「主人公の視点と、パートナーの視点との2視点」で描かれている。 +「全てを見通す視点」は、主人公が知りえない情報を簡単に描ける。  ので、さらに多くの情報を受け手が受け取れるようになる。  この視点が活用されることが多いのは、  「ミステリー」というジャンル下においてであり、  悪人や警察官の動きが、証拠品や現場の上記ょうなどが  俯瞰的に描かれることなどは珍しくない。 (その場合にも、やはり主人公が描写される機会は多数となる。  「主人公を定めない」作品で共感を得ることは非常に難しい) <どこでシーンをはじめ、どこで終わらせるべきか> + まず、シーンをどこで終わるべきかを考える。  そのためには「なぜそのシーンが必要か」を考えなければならない。  ・ シーンで一番見せたいものはなにか  ・ そのシーンが伝えるもっとも重要な情報はなにか  ・ シーン内での焦点はどこか  ・ シーン終了時、物語の流れをどちらに向けるのか + それらが明確になれば、シーンの始め方も明確になる。  つまり「それらを描写するためのセットアップ」から、  シーンをはじめれば良い。 + 例) 『トッツィー』のオーディションシーン    →一番見せたいもの   冴えない俳優のマイケルが、女装し、ドロシーになりきったときの、   実力と魅力の一端  →伝えるべき最重要情報  ・ドロシーがオーディションに臨み、ドロシーとして採用される  →焦点となるポイント   ドロシーが採用をされる、その瞬間  →セットアップ   /「オーディションの雰囲気」   /人々の様子   /ドロシー(マイケル)の受け答え  →シーンの展開 /台本を読む   /落とされそうになる   /切り抜け、ついに採用される  →次へのつなぎ   ドロシーは、ドロシーの姿のまま、   エージェントに、「仕事を得ることができた」と告げる。 + シーン内に情報を盛りこもうとすることのみを考えると、  ライターは得てして、『説明ゼリフのオンパレード』をやってしまう。 + これは退屈だし単調。  しかし、解消のための方法はある。 + それは   「シーン内で伝える情報」と同時に、   「シーン内で見せるべき出来事」を考えておくこと。 + 『興味を引くな出来事(イベント)』を中心に据え、  「それを通じて、観客にも伝えるべき情報が伝わる」ように組めれば、  「ただの会話シーン」を、そうでないものとして魅力あるシーンに  仕立て直すことができる。 + ので「見せるべき出来事」には、  ビジュアル的な魅力や緊張感を持たせることが必要。  脚本家は、情報・内容だけでなく、  「絵作り」もこのレベルでは考えておくべき。 <シーンの構成> + ストーリー全体と同様、  ひとつひとつのシーンにもまた「構成」がある。   つまり、進むべき方向と流れとを持っている。 + よくできたシーンは、そのシーン内での  「セットアップ」「アクト1」「アクト2」「エンド」  を持ち、その中に明確なターニングポイント、  クライマックスなどを持っている。 + 最も良く構成されたシーンの一例は、   『刑事 ジョン・ブック』の殺人シーン。  明快なセットアアップ、アクト1、第一TP、  アクト2、第二TP、アクト3、クライマックス、  レゾリューションがあり、三分半のシーンにまとまり。  かつ、物語全体で見れば強烈なセットアップになっている。 <連続シーンを作る> + シーン同士の関係性を考え、それを緊密に連携させることには  以下の3つのメリットが有る  1: ストーリーの流れが明確になる  2: ストーリーの焦点が際立つ  3: プロデューサーが思いつきでシーンをいじることを     防げる可能性があがる + シーンを連続させることはよくある。   同じようなシーン(カーチェイスやアクション等)を   連続させるときには、シーンの長さを 1st > 2nd > 3rd > (more..)  と、「後に続くものほど短くしていく」ことが重要。  (そうしないと飽きられる) + 「同一(類似)のアクション」によって連続するシーンの他に、  「同一(類似)のアイディア」によって連続するシーンもある。 + 例) 『逃亡者』   映画冒頭 「殺人事件の発生、濡れ衣、逮捕、裁判、列車での護送」  ↓   連続したシーン「列車事故の発生、危機一髪での生存、逃亡」   ↓  連続したシーン「保安官による追跡開始――」 + よくできた連続シーンは、 「全てのシーンの存在理由が誰の目にも明確」であり 「一つのシーンの終わりが、自然に次のシーンをセットアップする」  ため、ひとつだけを取り除き、そのリズム・勢いを  失わないようにすることは難しい。 + 逆に言えば、  『存在意義が不明確』  『つなぎがうまくいっていない』連続シーンは、  連続シーンとして上手に機能していないと判断できる。 <シーンの関係を見る> + 一つの作品を構成するシーン数は、作品ごとに異なっている。 + 2〜3しかシーンがないのであれば、  それは実質、演劇のシナリオである。  映画媒体であるのなら、  映画でなら表現可能な演出・魅力を、  あえて捨て去っていることに等しい。 + 逆に、例えば二時間の作品で数百のシーンとなると、  どのような表現媒体であれそれは「慌ただしすぎる」 + シーンの数に正解は無い。が、 『書きたい物語の内容』 『表現媒体』 『ボリューム(その作品に許容される時間や文章量の下限と上限)』  によって、適正なシーン数はある程度、自ずから定まってくる。   + シーン数が足りなすぎれば盛り上がりに欠けがちになり、  シーン数が多すぎれば慌ただしくなる。   出来上がったシナリオが今ひとつな場合には、  シーン数が適正かどうかをチェックしてみるもの有用。 <シーンのコントラスト> + 映画はビジュアルイメージの連続であるので、  二つのシーン、それぞれのビジュアルイメージを  対比させることにより、強烈なイメージを産み出せる。 + たとえば、最初のシーンは日中の公園、  続くシーンを深夜の街路にすると、  光と闇とのコントラストによって、  両方のシーンが同時に引き立つ +  『危険な情事』では、  アレックスとダンが、一緒にベッドで横になっているシーン  →クラブでの、熱狂的なダンスシーン、とつなぎ、  「静と動。静寂と喧騒のコントラスト」を描いている。 + 長いシーンと短いシーン。   イメージ中心のシーンと対話中心のシーン。   屋内シーンと屋外シーンなども、  意図的に、うまく見せることができれば、  印象的なコントラストを感じさせることが出来る。 + また、のんびりとしたシーン→激しいアクション、  といったペース面でもコントラストを演出できる。   + テーマそのものも、コントラストのための要素とできる。  「暴力的な殺人シーン/静寂な教会での葬儀」  とやれば、“死について”を自然と考えさせられる。 +「口論をしている夫婦/穏やか温和な家族の情景」  とやれば、“家族とは?”という意識づけを行える。 + コントラストをより強く見せるには、  インターカット<*1>を使うと良い。  (*1 多分、トランジションなどをうまく使い、    シーンを連続的に切り替える手法。  “シーン1-黒画面-シーン2” ではなく、  “シーン1-シーン1、シーン2ともに意味を持つカット-シーン2” ――的な)  + インターカットによる対比強化の例としては   『シンドラーのリスト』の   「強制収容所での結婚式/シンドラーがクラブで女性にキス」   『ゴッドファーザー』の  「洗礼命名式の祝典/殺人」  などがあげられる。 <完全なシーンであっても単独では機能しない> + 素晴らしいシーンは孤立して存在するのではなく、  連続的にクライマックスへと物語を運ぶ + 個々のシーンが美しいのに、物語が流れていないのならば、  シーン間の連携がうまくいっていないことになる。 + シーン間の連携がうまくいかないと、   『作品を長く感じる』ことになる。   映画で実例をあげるなら、 『ラストエンペラー』 『戦場の小さな天使たち』など +  『戦場の小さな天使たち』はチャーミングで粋で楽しい作品の上、  個々のシーンは美しい。   が、シーンシーンに連続性がないため、  「クライマックスに向けて物語が進んでいる」という感覚を持てない。  ので、エンドロールを見た瞬間、観客は、  『長い作品なのに、あまりにもいきなりのエンディングを迎える』  という脱力感を覚えてしまうことになる。 + ドラマ性に欠ける≒写実的な、単調なシーンを扱うときは、  特にここへの意識が重要。   そうしたシーンには連続性をもたせづらく、  ディテールこそは強化してくれても、  物語を推進させる役にたってくれないことが多い。 + もし、キャラクターに十二分の魅力があれば、  ストーリーの流れの悪さを観客は無意識に補ってくれる可能性が高い。  が、そうでない場合には「流れの悪さ」は、致命的となりかねない  欠陥のひとつになってしまう。 + 大事なのは「物語をクライマックスに向けて進めていく」という  意識を持って、シーンの取捨選択を行うこと。   そうなっていないシーン群は、単なる  「エピソードの羅列」にすぎない。 + シーンは単なる「エピソードの描写」ではない。  シーンには「イメージを構築する」「テーマを探求する」  「登場人物を描く」「連続することで物語を組み立てる」  といったことさまざまなことが可能であるということを  忘れてはならない。 ―――――――――――――――― <この章のまとめとチェックリスト> + 全てのシーンに明確な存在理由があるか + 大半のシーンは、物語をクライマックスに向け  推し進める役割を果たしているか。   また、明確な方向性を持っているか。 + 「物語が進んでいると感覚」をあたえることが   出来るシーン(群)になっているか + シーンは、適切な位置から始まっているか  始まる前に不要な情報を含めていないか + シーンが終わったあとだらだらと続け、  不要な情報を交えてしまっていないか + 情報の羅列(対話だけのやりとり)でシーン構成をしていないか。   イメージや葛藤を用い、より深めることが出来ないか + シーン同士の関係性に流れは有るか + シーンが繰り返し・重複になっていないか + 単調・退屈ではないか + 劇的・魅力的な意外性を持つシーンはあるか   + ストーリー全体を通してはもちろんのこと、  受け手はシーンのひとつひとつ、それぞれを楽しむことが出来るか ――ひとつひとつのシーンが魅力的であり、それらが流れよく連携し、   かつ単調に流れない大波を持つ脚本をこの時点では目指したい。       そうできれいるなら、次はそれに「統一感」を持たせることが   望ましくなってくる。 ―――――――――――――――― 【統一感のある脚本を作る】 + 音楽は、モチーフとリズムを繰り返すことで統一感を作る。  音楽にもビジニング、ミドル、エンドがあり、  繰り返されるモチーフが、それらがパートごとにバラバラのものではなく、“ひとつの曲”であることを伝えてくれる。 + 建築なども、全ての部屋の照明や採光、  あるいは窓や内装などにパターン性をあたえることにより、  「バラバラの部屋の集合」ではなく  「ひとつの家」という統一感と安心間とをあたえる。 + 映画や、他の映像作品も、それらと同じで、  「統一感」がなければ、ひどく散漫で落ち着かないものになってしまう。 + そうするためには、脚本の中に、  フォーシャドゥーイングとペイオフ(前借りと精算)  モチーフの繰り返し、反復や対比といった要素を盛り込む必要がある。   (つづく)