ハリウッド・リライティング・バイブルの勉強 2013/06/24- 不機嫌亭ゲーム班 進行豹 +このテキストはリンダ・シガー著 愛育社刊 『ハリウッド・リライティング・バイブル』を読んでの所感を わたくし、不機嫌亭ゲーム班 進行豹が、自己の学習を目的として 私的にまとめたレジュメとなります。 ―――――――――――――――― 【イントロダクション】 + 素晴らしいアイディアを得たからといって、 素晴らしい脚本が書けるわけではない。 + ライティングとリライティングがあって初めて、 脚本は素晴らしいものに仕上がる可能性を持つ。 + ライティングとリライティングの基本原則は同じ + それは「アイディアの整頓」  「ストーリーテリングの技術」  「キャラクター作成の方法論」  といった、いくつかのメソッドの複合 + ライティングとは、それらのメソッドを用い、 初稿を完成させるための技術。  リライティングとは、それらのメソッドを用い、 初稿の機能していない部分を機能させる技術。 + リライトの大原則は  『機能しない部分を直し』  『それ以外はそのままに残す』 + リライト失敗の最大要因は、  『もっと、もっととリライトしてしまう』こと。 + リライターは、(機能していない部分を機能させることにより)  『脚本を軌道に載せる』ことのみを目的としなければならない。  “それ以外の部分”へのリライトは、脚本を軌道から外してしまう。 + リライトを困難にする要因は、  1:『作業を始める前に、問題点を明確に定義できていない』  2:『作業を始める前に、問題点を分析していない』  のいずれか。 + 脚本の一部分の変更は、当然、他のすべての部分にも影響を及ぼす。 + ゆえに、問題点をしっかり分析し、  明確に定義できなていないうちには、リライトに着手してはならない。 + 本書(ハリウッド・リライティング・バイブル)では、  頻発する類の問題点の解決手段を探るため、  成功した映画の脚本を教材としていく。 ―――――――――――――――― □ 第一章 アイディアをいかにまとめるか □ + アイディアは完全な形では訪れない。  執筆するためには、それを整理することが必要。 【アイディアをいかに整理するか】 + 脚本は   「ストーリーライン」  「登場人物」  「根幹を為すアイディア(プレミス)」  「イメージ(トーン、空気感)」  「ダイアローグ(対話)」 という5つの主要な構成要素に分割できる。 + どの要素から着手しても脚本は出来上がるが、  いずれかの時点ですべての要素を統合することが必要になる。  そのための代表的なアプローチ法は、以下。 +<インデックスカード>  →カードにアイディアやシーンの断片を書いていく。   カードの並べかたをあれこれ変化させ、   ストーリーラインや構成を考える  <アウトライン>  →おはなしの骨組み部分だけを書いていく。   エピソードの細部やサブキャラクターのエピソードなど省き、   とにかくメインストーリーラインの骨組みだけを書く。  <トリートメント>  →アウトライン+肉付け。   いわゆる<あらすじ>。   全体の流れを確認しつつ、重要なエピソードの細部や、  サブプロットの付け外しなども試したり。    <ライターズノート>  →設定メモ。   キャラクターや、舞台背景などについて掘り下げてつくるメモ。   「キャラクターの誰かの視点」でキャラクターに関するメモを  つくれば、それはダイアログに関するメモにもなる。  <録音>  →ICレコーダーかなにかを常に手元において、思いつくことを録音。   時間をおいてから聞いて、有意そうなものを書き写す。  <とにかく書いてみる>  →書いてみて、突っかかったらいろんなテクニックを試してみる。   もし書ききれて仕上がりがいいなら、それで必要十分。 + 創造のプロセスに唯一絶対などというものは存在しない。  ゆえに、間違った方法というのものも無い。  書けるまでためすべき。 + 脚本を書き始める前に以下のことをチェックすると役にたつかも Q「その物語を何故書きたいのか」 →この答えが明瞭なほど、頑張り抜ける可能性が高まる(かも) Q「五大構成要素  <ストーリーライン>  <プレミス>  <キャラクター>  <イメージ>  <ダイアログ> を整えられているか」 →全く未着手な要素があるうちに書き始めるのは無謀(かも) ―――――――――――――――― □ 第二章 三幕構成 □ <三幕構成の基本> + 三幕構成とは、  アクト1,アクト2、アクト3の三幕で構成される物語 + アクト1とアクト2の間には  「第一ターニングポイント」(一つ目の「転」)  アクト2とアクト3の間には  「第二ターニングポイント」(二つ目の「転」)  がある。 + アクト1の前には「セットアップ」(導入)  を設ける + アクト3の終盤にはクライマックスを用意し、  クライマックス後にレゾリューション(解決)を置く。 + ↑が、三幕構成の基本的な骨組み + *個人的メモ  (シド・フィールドは、上記の他に、   「ミッドポイント」<=物語全体の中間の転換点>   を、三幕構成の基本要素に加えている) <セットアップ> + セットアップ。  映画でいえば、「最初の十〜十五分程度の間」。  脚本中【最も重要】といっても過言ではない部分。   + セットアップの役割は、  「ストーリーを理解するにの必要なすべての鍵を   受け手に与えること」 + すなわち  <主人公は誰か>   <いつの時代の、どこでの、何についての話か>  <物語のトーンはどんなか。コメディなのか、シリアスなのか> + そういったものが疑問だと、受け手は物語に集中できない。  また、セットアップがクソだと受け手は物語からそっぽを向く。  故に「伝え方」が極めて重要になる。 + (例)    『刑事ジョンブック』はイメージ(トーン)から伝えていく。     アーミッシュの共同体のゆったりといしたイメージ。    それは物語の展開につれ、警察の世界の乱暴さとの対比を描く。 + イメージの他に、登場人物、場所、舞台、時代も伝える必要がある。  が、それらを伝えるだけでは物語は始まらない。  物語を始めるためには、カタリスト(きっかけ)が必要である。 + カタリストは大きく三つに分類できる。 1: 事件・事故・喪失   (殺人、窃盗、行方不明、等々)   2: 新しい情報・葛藤  (昇進や転勤の告知、病気や妊娠の宣告、習い事を始めたい等々) 3: 状況説明  (主人公を取り巻く状況を     丹念に説明すること自体をカタリスト化。   「主人公は失業中の俳優、オーディションをいくら受けてもダメ」   「主人公はいろんな女の子からモテモテ」) + イメージ、情報を伝え終わり、カタリストも与えた。  しかし、もうひとつセットアップにはかかせないものがある。  それは「セントラルクエスチョン」の提示。 + セントラルクエスチョンとは、  「クライマックスで解答を示される、物語を通じての大きな疑問」 + 例えば殺人事件がカタリスト、主人公が刑事なら、  「主人公は、事件を解決できるか」がセントラルクエスチョン。  病気の告知がカタリスト、  主人公が“恋人と破局寸前だったキャリアウーマン”なら  「主人公の病気は治るのか、   病気は彼女の人生にどんな影響を与えるのか」がCQ。  失業中の俳優〜〜などの状況説明カタリストなら、  「彼はどうやって仕事を見つけ、   それによりどんな人生を切り開いていくのか」。  モテモテ主人公状況説明なら、  「このモテ男は、どのヒロインとどんな恋をしていくの?」  がCQとなる。 + 上記のように、CQは、「示して与える」のではなく  「自然と、受け手の胸に浮かびあがってくる」ような形もアリ。  しかしながら、  『セットアップが終了しても、   セントラルクエスチョンがわからない』 (「主人公は一体なにをどうしたいの?」と受け手が戸惑ってしまう)  場合、そのお話に興味を持ち続けてもらうことは、おそらく厳しい。 ―――――――――――――――― <アクト1> + セットアップで、  「この物語は何を描くものであるか」を過不足無く示せた場合、  そこから物語はアクト1へと突入していく。   + もちろん「物語が何を描くか」を伝えるまでに、  もっとゆったりとした時間をかける物語も数多存在する。  (興行性より芸術性を優先させたものなどに、特に)  しかし、基本的に、   『セットアップ完了までにかけた時間と、   物語の構成が破綻する可能性とは、正比例する』  ゆえに、セットアップをタイトにすることは極めて重要。 + アクト1は、セットアップの展開を引き継ぐ。  引き継いで、より深めていく。 + セットアップがうまくいっていた場合、  受け手は「もっとよく知りたい」よ思ってくれている。  <登場人物はどんな人か>  <どこから来たのか>  <何に興味を持っているのか>  <どんな人間関係を築いているのか>   <どんな葛藤をかかえているのか>   <どんな敵対者を持っているのか> 等々 + 簡単に言えば、その疑問を埋めていくのが、  アクト1の役割。 が、単純に説明するのでは、  100%飽きられるし、つまらない + ので<イベント(ビート)>を適宜  叩き込んでいくことが必要になる。 + (例)刑事ジョンブック >ジョンブックはサミュエルに容疑者を見せる >ジョンは、サミュエルの滞在延長の手配をする >ジョンは、サミュエルに面通しさせる >ジョンはサミュエルに人相写真を見せる >サミュエルはマクフィーの写真を目にし、彼が殺人犯だとジョンに告げる >ジョンは、その情報を警察本部長ポールに話す >マクフィーがジョンを殺そうとする。(マクフィーは誰から、“ジョンが彼を殺人犯であると知った”との情報を得たのか?)――ジョンは、ポールが殺人に関与しているのだと悟る <<↑このイベントが第一ターニングポイント>> +「イベントが発生し、それに取り組む→乗り越える」 というプロセスを経るごとに、 「受け手が知りたいと思っていることが、自然と伝わっていく(描写される)」 ――ようになっていれば、理想的。  それを重ねた上に、 『物語がガラリと転回する大きなイベント、   イコール、第一ターニングポイント』を迎えさせる。 ―――――――――――――――― <ターニングポイント> + 上記、ジョンブックの例に見られるように、 「味方だと思っていた人が実は敵だった」的な、 物語の進捗を大きく転回させるポイントが、 「ターニングポイント」 + ターニングポイントの主たる目的・機能は以下  ・ ストーリーを新しい方向へと向かわせる  ・ セントラルクエスチョンを、受け手に再確認させる   (どうやればそれが解決できるのか、    予想を覆し、もう一度考えさせる)  ・ 主人公の、「主人公としての性質」を見せる    (決断や行動、あるいは危機への対処によって)  ・ ストーリーを再加速させる    (一定のテンポで展開されつづける物語は、     受け手にとっては「減速してる」と感じられてしまう)  ・ 舞台(場面)を大きく変化させる。     ・ 受け手が物語へと注ぐ視点を変化させる + 優れた物語は、ターニングポイントが明確  自分の好きな作品の、  「どこが第一ターニングポイントか」を  意識して見るだけでも勉強になる。 ―――――――――――――――― <第2ターニングポイント> + セットアップをし、アクト1で基礎をかため、  第1ターニングポイントでそれをひっくり返し、  アクト2で深めた話を、  『クライマックスまで一気に持っていく』のが、  第2ターニングポイントの役割 + 第2ターニングポイントの性質は、 『仕掛けられていた爆弾の時限起爆スイッチが入れられる』  というキーワードでくくれるかもしれない。 + 「爆弾はあそこに仕掛けられていたのか!」    (伏線の回収)  「スイッチが入れられてしまった! 爆発まではあと10分!!」   (危機の明確化)   「それまでに悪党を倒しヒロインを救わなければ!」   (主人公が解決すべきこと=セントラルクエスチョンの再提示)  ――という感じに、  「問答無用で、一気にクライマックスへと物語を運ぶ」  のが、第2ターニングポイント。 + 第2ターニングポイントを2ブロックにわけることも多い。  <悪いニュース><起死回生の一手>という風に。  (悪いニュース)  「お前さんの目はもう限界だ。   あと一発でも顔面にパンチを受けて見ろ。   失明しちまうことはまちがいなしだ」    (起死回生)  「だが、ボディー攻めがやっと効果を示してくれたぜ。   やっこさんの足が止まりはじめた。   もう少しだけ頑張れば、   あのフィニッシュブローも当たるようになるだろう」 + 言い換えれば、  「主人公が、物語中で最もシリアスな決断を迫られるポイントが、   第2ターニングポイント」   その決断のための判断材料が悩ましければ悩ましいほど、  「決断の結果を見届けたい!」という気持ちは高まり、  クライマックス=アクト3は盛り上がる。 + つまり、第2ターニングポイントの明確化に失敗すれば、   クライマックスが無いまま、   物語はエンドロールへと到達することになってしまう。  (もちろん、そのような事態は原則、回避すべき) ―――――――――――――――― <クライマックス-エピローグ> + クライマックスは、映画でいえばラスト1〜5分前ほどに。  早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。 (*第2ターニングポイントとクライマックスとの間にあるのが、  アクト3。ここは、息を止めて駆け抜ける感じで、  一気に物語をクライマックスへと持ち上げていくべきパート) + クライマックスとは  「セントラルクエスチョンが解消される瞬間」    つまり  「刑事は犯人を捕まえられるの?」    →「犯人逮捕がクライマックス」  「マーティーは元の時代に帰れるの?」    →「元の時代に帰った」  「人喰い鮫を退治できるの?」    →「退治した」 が、クライマックス。   + クライマックスが終われば、その物語は基本  「もう語るべきを持たなく」なっている。  ので、エピローグはダラダラさせない。   「彼の物語」を終わらせた主人公はもう主人公ではなく、  家にかえって日常を過ごすべき存在になっているのだから。     もし、解消すべきサブプロットなどを残しているのなれば  それを速やかに解消し、それがなければ、可及的速やかに。  「物語が終わった」以上は、迷わず、未練なく、 『エンドマークを打たねばならない』。 ―――――――――――――――― <オープニング> + 映像作品の始め方には3つの方法がある 1) タイトルから始める    →    配給会社クレジット>製作会社クレジット>タイトル画面>物語    みたいな始めかた。    1950年代以前の映画はほぼすべてこのスタート方法 2) クレジットがかぶさったイメージやアクションから物語を始める    →    羊達の沈黙、ジョーズ、危険な情事等。    クレジットがかぶってる間に物語本体が始まったりはしないが、    かぶせている間のイメージで雰囲気や情報を与えている。 3) プレクレジットシークエンス(アバンタイトル)を使う    →クレジットの前に、2〜3分程度の短いシーンを挟む始め方。    1980年以降、急速に増えて発展した。 + アバンタイトルの使い方一例、   『ブロードキャスト・ニュース』    子供たちを登場人物として紹介   ↓   タイトル   ↓   子供たちがおとなになり、放送ジャーナリストになったところから   ストーリースタート   +  アバンタイトルを長くとり、状況のセットアップなどを済ませて   しまうケースもある   ( 『ウォー・ゲーム』 『7月4日に生まれて』)など +  ただし、いかに長いアバンタイトルであっても、    『タイトルクレジットが終わる前に、     ストーリー本体を初めてはならない』 + クレジット部分を考えるのは、基本、ライターのしごとではない。  が、アバンタイトルを使いたいのであれば、それはライターのしごと。  その場合には、タイトルクレジットをふくめての構成を監督に  伝えることが大切になる。 ―――――――――――――――― <ミッドポイント> + ミッドポイントは、すべての脚本/作品に存在するわけではない + ミッドポイントは、文字通りおはなし全体の中間付近に存在し、  「おはなしを前半分と後ろ半分に分割する」役割を持つ + 物語の中でもっとも多くのボリュームをもち、 故に最も  「テンションを維持してもらいつづける」ことが困難な  アクト2の構成は、ミッドポイントを設けることにより  メリハリをつけやすく(よって再構成しやすく)なる。 + なぜならミッドポイントは、脚本全部を2分割すると同時に、  アクト2自体をも分割してくれるから。    + ミッドポイントの役割は、つまり、  「ミッドポイント以前の方向を明確にし」  同時に  「ミッドポイント以降の方向性を変化させる」 こと + ミッドポイントが明快な作品は、  ミステリやスリラーに大きく見られる。   『危険な情事』 『逃亡者』 『羊達の沈黙』  他ジャンルだと、   『トッツィー』 『shall we ダンス?』 等々。 + ミッドポイントは、ターニングポイントのように派手ではない。  注意しないと気づかない。  例えば、「羊達〜」では、レクターがメンフィスに移されるシーンが  ミッドポイント。   『Shall we〜』では、杉山がパートナーと組んで、   ダンスコンクールへの出場を決意するシーンがそれ。 + 【ミッドポイントとターニングポイントを混同してはならない】   ターニングポイントは意識的に設け、   それによりきっちりと構成された物語から、   ミッドポイントは自然と浮き上がってくる――みたいのが理想。 + ミッドポイントが非明確でも、面白い物語は数多存在する。   ミッドポイントにこだわりすぎておはなしを崩したら本末転倒。           +