「って、夏葉、家までまてないの?」 「待てないよー! 「なるほど、それは面白そうだね。 「はーい!」 良い子のお返事。 同時に夏葉は、 「これが――夏葉の」 「そうだよ、夏葉のスマホだ」 「すごいすごいすごい! 夏葉、かんどー!!」 「ずっと欲しがってたものね」 「それもだけど! もちろんだけど! 「うん?」 「それだけじゃなく、初めてのスマホ屋さんにもかんどーしたの! 「ああ――」 夏葉の世界は狭いのだなぁ、と、 考えてみれば、犀玉のアパートとものべのと病院と、 「茂伸には流石に出来てないと思うけど、 「そーなの!? けっこー凄いねトサヤマダ! 「いや、売ってるだろう。 「きゃあ!」 ふさけて、ぶつふりをしてみせたなら、 「そんな悪い夏葉にはおしおきだぞ~!!」 「おしおきや~ん!」 夏葉の頭をくしゃくしゃ撫で 「って!? それはほんとにヤダってばおにいちゃんっ!、 「え? あ、そうだったのか。ごめんごめん」 途端に、夏葉がぷくーっと膨れる。 「くしゃくしゃにされるのもやだけど、気づいてなかったのがもっとイヤ! 「ああ――」 言われてようやく気づくとは…… 「本当だ。良くにあってておねーさんっぽい。 「えっへへ~」 にっこり笑って、 「いけないいけない! (ああ……赤江ちゃんに妙なことでも吹き込まれたのか) お姉さんらしい顔を見せてくれたと思えば、 外見相応、年相応―― 「あれ? どうしたのおにいちゃん。 「ヘンな顔ってことはないだろ。 「モノオモイって? どんな思い?」 「うん――」 せっかくのお誕生日で、外出日だ。 「……夏葉と一緒に、 「いろんなとこ!? どんなとこ!!」 「犀玉よりもずーっと大きな都会とか、 「新宿とか!? 東京とか!?」 「もっともっと! ニューヨークとかロンドンとかさ!」 「外国! すごい! 夏葉いきたい!!」 いってこっくり、夏葉は大きくふかく頷く。 「そっか――外国かぁ。外国なら、 「いや、日本国内にもあるだろう。 「北海道! 沖縄! すごいすごい! 「うん。行こう。 「わーい! 夏葉、そのときまでに病気! 「うん。そうだな! そうしよう!」 ……余計な気づかいなど必要なかった。 病気を、今の自分の一部としっかり理解し、 「けど――そんな遠くまでいくんだったら、 「心配って、なにが?」 「お兄ちゃんはそうじゃないけど、 「大丈夫。そのためのスマホだろ?」 「そっか!! 電話しちゃえばいいんだね! 「だけじゃなく、スマホの中には地図がはいってるし、 「なにそれなにぞれ! スマホすごい! 「もちろんだ」 まずは、LINE。 夏葉にアカウントをつくってあげて―― 「わ! すごい! おにいちゃんが友達になった! 「これで、夏葉と僕はいつだってただで電話できるよ?」 「すごいすごい! かけたいかけたい!!」 「それは、電車をおりてから」 「っていうかさ、おにいちゃん! 「うん。それは無理だ。 「わ! ぜったいむりっ! 「ああ――そうか、その手があるか。 「わいふぁい?」 「電波がちゃんと通じるってこと。 「あ!!? えと! それはいいよお兄ちゃん。 「そっか」 ……とてもかわいく、とてもわかりやすい独占欲だ。 「それじゃ、そっちはよろしく頼む。 「なおたけおじちゃんと――って、 「うん。そう。そもそも僕がスマホとかLINEを始めたのも、 「そっかー、LINEは便利なんだねー」 しかつめらしく、夏葉がうなずく。 「ほかには? さっきいってた地図とかはどうやるの?」 「はいはい」 マップに、電卓、カレンダー。 夏葉が使いそうな機能を順番に教えていく。 「わ、すごい便利! 『おにいちゃん、だいすき!』 「あはは、うれしいな。 「そんなことまでできちゃうの!?」 「うん。LINEでもできるし、 「すごい――すごいスマホ! 「なんでもはいいすぎだけど、 「ほんとだねー! あと、ビデオもとれたら 「あれ? カメラのとき説明しなかったっけ? 「ほんとほんと!? とり方おしえてっ!」 「基本的にはカメラとおんなじ。 「え? なに? もうとってるの? あわわわっ、 「もう終わり? はい、オッケ。 「わ――――ふわ―― 「まぁ、照れてあわててるからだよね。 「もー、おにーちゃんったらほめじょうずなんだからー」 ああ、ますますこどもっぽい表情だ。 かわいらしいし、おもしろい。 「けど、よかったー、どうしようかって、 「え? なやんでたって……なにに?」 「あのね? 「ああ、院内学級の学芸会」 「あれ、赤江ちゃんのママがビデオとってて、 「うん――ああ、そうか! 今年の主演は」 「そうなの。今年のショー、 「そっか――それなら、録画、ちゃんと練習しないとな」 「うんっ! えへへっ! (ちゅっ) 夏葉のキスが、僕のほっぺたをサっとかすめる。 今の夏葉を撮っておきたかった―― 「夏葉、おかげでなれちゃった!
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