『Backstage Hollywood』(練習作)/  準備稿 不機嫌亭ゲーム班 進行豹 <> 【昼間、屋外、ロケ隊、事故現場】 +TVの生中継っぽさを強調したカット 「以上、現場より、レイシー・セイワーズがお伝えしました」 「はい、オッケー」 「何をやっているんだ、何をっ!」 +画面切り替え、中継現場の全景、またか、といううんざりした空気  中継スタッフたちの視線の先には、二人の男。 アフリカ系の中年男性と、それよりは若い白人の目深に帽子をかぶった小男。 小男 「何って、撮影ですが」 中年 「何を撮ってるっ! それがお前の“報道”か!」  男、ハっとしたように自分のカメラのモニターを見る。 そこには、現場背景の滝にかかった、小さく鮮やかな虹が映っている。 中年  「誰がそんなものを撮れと指示した、ジョン。       お前は何か、芸術家か?」 ジョン  「いえ……そのっ――」 中年  「この現場を仕切ってるのは誰かわかってるのか?」 ジョン 「それはもちろん、あんたです。クロードさん」 クロード「わかってるなら、指示に従え! チームで番組をつくってんだぞ!!      いつまでも過去にすがって、映画の撮影監督気どりじゃ」 ジョン 「っ!?」 クロード「なっ」 ?  「へぇ! こんなに可愛い虹が出てたんだ、気づかなかった!」  ジョンの表情が硬くなり、空気に緊張が走ったその瞬間に長身の男が割りこんでくる。 長身 「凄惨な殺人現場に、可憐な虹!     ジョン、確かに、こりゃあ映画的だねぇ。ちょっと報道じゃ比喩的すぎだ」 クロード 「(あきらかにホっとして)なんだ、デイビット。お前まで監督きどり」 ディビッド「いえいえ!? 監督は局長! もちろんご指示に従いますとも!」 + 言って、デイビットが指さすのは、うんざりムードのスタッフたち デイブ  「みんな、ご指示を待ってますしね」 クロード 「(ニヤリ) 撤収、撤収だ! さっさとやれよっ!」 + 撤収の喧騒、全体が動き回る画面の中、ジョンとデイビットだけが立ち止まっている。 デイブ 「いい対比だけどね、実際」 ジョン 「偶然だ。特に撮ろうと思ったわけじゃ」 デイブ 「偶然、ね?」 + デイブ、カメラを操作し、ズームを1.00(等倍)に。と、その虹が、点のようにしか  映らない、本当に小さな、普通な見逃すものだとわかる。カメラ電源、ブツリと落ちる。 ジョン 「撤収だろ」 デイブ 「(やれやれ、と肩をすくめて立ち去る)」 + ジョン、アップ。一瞬、虹の方を見て、帽子のつばを深く引き下げ、顔を隠す。 --------------------------------------------- 【ジョンの家、夜】 + 郊外の一軒家。ロング + その家の中、高校生ぐらいの息子とその母親が、映画を見ながら楽しそうに談笑している + 窓の外から乱暴なエンジン音。母親 ビクリ、息子 心底イヤそうな顔 母 「お父さんだわ」 →ほとんど無意識にリモコンでTVの電源を切る    + 郊外の一軒家、外。ガレージに、車(荷物が積めそうで、しかし家族向けでは無い車種。ジープとか?)が乱暴に突っ込まれる。  + 無言で降りてくるジョン、何もいわずに家の鍵を開け、ドアを開く。 + 開くドア、やや遅れてパタパタかけてくるさきほどの母(=ジョンの妻)。 妻   「おかえりなさい、あなた」 ジョン 「ああ」 + 妻、にこにこしてはいるが、どこか怯えているようにも見える。 妻   「あの……お食事は?」 ジョン 「すませてきた」   <廊下の奥から、大音声のTV音声が響いてくる ジョン 「!」 <無表情から一変、極めて不愉快そうな表情に + ジョン、どかどかと廊下を進む。妻、怯えたように叫ぶ 妻   「マイケル! TVを消して部屋にっ、あなた、待って!」 ジョン 「どくんだキャサリン、毎日毎日映画ばかりっ」 マイケル「映画の何が悪いんだよ」 + マイケル、自分から廊下に出てきてジョンと対峙する (TV音声は変わらぬ音量   マイケル 「いいだろ、やることやって 好きで映画を見てるんだ。       仕事の一つもこなせない父さんに とやかくいわれたくないね」 キャサリン「マイケルっ!」 ジョン  「……下らん映画で、下らん台詞をおぼえたものだな。       それがお前の『やること』か?」 マイケル 「ちゃんとやってるっ! ハイスクールでも、バイト先でもっ!!       僕は父さんとは違うんだっ! どこでだって、みんなと上手くっ」 ジョン  「なら、『ここでも』上手くやるんだ。ルールを守れ。ウチの中では映画を見るな」 + マイケル、怒りで真っ赤な顔になる マイケル 「父さんのことはウワサになってる!       デイブおじさんに迷惑ばっかりかけてるって!       仕事場のっ、TV局のルーもを守れてない人にっ」 ジョン  「『僕は父さんとは違う』んだろ? お前は、ルールを守るんだ」 マイケル 「〜〜〜〜っ!」 マイケル、そのままジョンの傍らを乱暴にすりぬけ、階段を上っていく。 + ジョン、振り向く(ジョンの背中を目で追う)こともせず、   苦虫をかみつぶしたような表情になり、帽子のつばをグイっと下げて、   何も言わず部屋に入ってTVを消す。 + その仕草に、キャサリン、悲しそうに下を向く。   が、部屋からジョンが出て来たときに、けなげに顔をあげ笑顔をつくって キャサリン 「あの、それじゃお酒でも」 ジョン   「明日は早い。もう寝る。朝食もいらん。起きなくていい」 キャサリン 「……はい、あなた」 + ジョン、帽子をかぶったままで、シャワールームに消えていく + 水音。キャサリンはとぼとぼとキッチンに戻り、二人分用意してあった食事の、自分の分をもそもそ食べる。 + スープに、ぽとん、と涙が落ちる。 --------------------------------------------- 【早朝、ロケ隊、中継現場】 + 都市、超高層ビルの前、テキパキと準備をしているロケスタッフと、  その中で一人のたのた、あくびまじりに機材をセッティングしているジョン + 繰り返し、周りのスタッフとぶつかったり、物を落としたり、細かな失敗を重ねるジョン。  中継開始までの残り時間が無い中、その影響で遅れる準備、イライラの募るスタッフ、   + 大あくびをし、眠気を払おうとするように首を振り、アシスタントスタッフにコーヒーを貰うジョン。  「さて」と振り返った瞬間、中継の主役であることが一目でわかる女性リポーターに、   そのコーヒーをひっかけて、衣装を台無しにしてしまう + すっ飛んでくるクロード(上司)、大激怒 クロード 「まともな仕事もできん上、他人の仕事の足までひっぱるってのか、お前はっ!!!!」 ジョン  「……………いえ…………………………すみません」 クロード 「もういい! このカメは他に任せるっ!! お前は先に帰ってろっ!!      おい、ヒース、ヒース、来いっ!」 + さっきコーヒーを入れていたアシスタントスタッフが、ジョンのカメラの前にすっ飛んで来る。 + ジョンを完全に無視し、忙しく打ち合わせを始めるデイブとヒース。   + ジョン、帽子を深くかぶり、しばらく立ちすくんでいる。   やがて、のろのろと歩きだし、無人のロケ車の運転席に入りこみ、カーラジオをつける。 + 流れるカーラジオ。  シートをリクライニングさせ、横になり、目をつぶるジョン。昨晩の出来ごとを思い出してしまう。   脳裏に浮かぶ、さげすんだような、憐れむようなマイケルの冷たい目。 + カーラジオ 「さて、お次は今週の注目映画」  ジョン    「くそっ!」 + ジョン、横になったままカーラジオのスイッチを蹴りつけようとする、  が、その足は先にハンドルに触れてしまう + ロング、(画面切り替え)中継現場 衣装を変えた女性キャスターが真剣な面持ちで中継をしている背後に、  『ぶーーーーーーーーーーーーーーーー』っと大音声のクラクション + クラクション音で掻き消されるが、クロードが真っ赤な顔をして、中継台本とヘッドセットを地にたたきつける。口の形は 「ジョンっ!」と叫んでる。 --------------------------------------------- 【TV局・夕方】 + 報道局内でジョン、デイブと女性キャスターとに、ガンガンに叱りつけられている。  (デイブは他の仕事に出ているのか、不在) + 始末書を提出するジョン、乱暴に受け取るクロード。 クロード「カメラがイヤなら、希望を出せ。     お前をクビにする権限は残念ながら持ってないがな、     局内での配置換えなら、いくらでも希望に沿ってやる」 + ジョン、うつむいていた顔を上げる。  疲れ切ったその顔に、あきらめのような安堵のような顔が浮かんでいる。 クロード「ならっ――(口を開き、何かをいいかけ、しかし言葉が出てこない)」 + ジョンの指が、小刻みに震えている。クロード、憐れむように クロード 「家に帰って、よく考えろ」 キャスター「いい? 私たちはチームで番組を作ってるのよ? 真剣勝負をしてるのっ!       やる気が無いならっ」 クロード 「打ちあわせの時間だ、レイシー」 レイシー 「とにかく、これ以上足を引っ張らないでっ!」 + デイブとキャスター(レイシー)ジョンを置いて立ち去り、会議室に移動する。  他の局員も大方すでに移動しているのか、室内はガラン、としている + ジョン、とぼとぼと部屋を立ち去る + 1Fエレベーターのドア、開く、中からジョンが出てくる。   ビルの外への出口からは、夕日が差しこんできている。   + ジョン、エレベーターを一端おり、出口に向かって歩き出しかけ……   けれど立ち止まり、とぼとぼとエレベーターの中に戻る +  会議室、制作会議中。       積極的な会議を進めるスタッフたち。    その片隅にぽつんと、帽子を深くかぶったジョンが、うつむいたまま座り、孤立している。       --------------------------------------------- 【深夜、バー】 + バーのドア、とても小さな店、裏路地 + ドア、誰かの手によって開けられる + その誰か目線、カウンターで一人飲んでいるジョンの帽子(後ろ姿)を見つける + 「こんばんわ」   と、その誰かいい、ジョンの帽子を持ち上げる + カメラ、カウンターの内側から (ジョンたちの正面側)   帽子を撮られたジョンの隣のスツールに、ジョンの帽子をかぶったデイブが座る。 + バーのマスター、注文も聞かぬうちから、デイブの前にグラスミルクを出す。   丁度グラスを開けたジョンには、何も聞かずにソルティドッグのお代りを出す。 + デイブ、チラっとマスターを見る マスター、無言で四本の指を立てる。  デイブ、ほっと安心したように、ちびちびミルクを飲み始める。 + ジョンもデイブも何も言わない。  マスターがジョンにおかわりを出すたび、デイブは机の下で指を折る(4→5→6) + マスターが8杯目を出す。ジョンがそれに口をつけたようとした瞬間デイブ  デイブ 「二日酔いになるぞ?」  ジョン 「あ―― ああ」  + ジョン、かなり酔い、とろんとした目になっている。  ジョン 「お前、いいのか?」  デイブ 「ん? 何がさ」  ジョン 「明日だ。早いだろうに」  デイブ 「ああ」 + デイブ、笑顔に (自らの仕事スケジュールをジョンがおぼえていたことが嬉しい)  デイブ 「送ったら、すぐに戻るさ」  ジョン 「切り上げろってことか? はいはい」 + ジョン、デイブの頭から帽子を取り返し、浅くかぶる。財布から札を出し、カウンターに置き  ジョン 「……すまんな、上手くやれんで」  デイブ 「そういう時もあるさ」 + デイブ、店のドアを開けながら  デイブ 「そうじゃない時もあるしね」  ジョン 「…………」 + ジョン、帽子を目深にかぶり直す。  デイブの車の助手席に乗る。  デイブ 「寝ていいよ。落としていくから」  ジョン 「ああ」 + ジョン、目を閉じる。デイブ、カーラジオを入れる、小さな音で、穏やかな曲が流れ始める。 + 暗転 --------------------------------------------- 【その1〜2時間後、ジョンの自宅】 ( 画面、暗闇のまま ) + 家電がけたたましくなる    + 廊下をノタノタと歩く音 + 電話に出る女性 「はい…………はい………………えっ!?」 + 女性の叫び 「あなた! ジョン!! あなたっ! デイビッドさんがっ!!」 + ロング。どこかの道路上で事故車が激しく炎上している。   --------------------------------------------- <> 【病院、病室、深夜】 <+ 深夜の病院に、荒々しくジョンの車が乗り付ける> <+ 声だけ> ジョン  「身内のものだ。今日の事故でデイビット・バローというものが」 時間外受付「3階の3101です。お会いいただけますが、長時間の御面会は」 ジョン  「ああ」 <+ 3101号室の扉、ジョンの手がノックする。> デイビット「はい」 ジョン  「デイブ、無事か!?」 デイビット「ジョンか、よく来て」 <+ デイビットの言葉終わらぬうちに開けられる扉。ジョンの背中、で画面埋まる。> ジョン  「デイブ――お前……お前っ」 <+ 崩れ落ちるジョン、画面開く。と、ベッドの上でこちらを見ているデイブの目には、包帯。> ジョン  「目を――目をっ」 デイブ  「ああ、大丈夫だって! 目蓋のやけどだけだから!!」 ジョン  「目蓋の?」 デイブ  「詳しい検査はやけどが治ってからだけど、眼球には異常無さそうって、先生が」 ジョン  「そうか……」 <+ ジョン、ほっとしたように立ちあがり、はっ! として、デイビットへと近寄る。> ジョン  「他に怪我は」 デイブ  「軽いもんだよ。一番重いので目蓋のやけど。全治、2〜3日だってさ」 ジョン  「そうか、それなら……」 <+ ジョンの顔、凍りつく> ジョン  「いや――お前、明日って」 デイブ  「そうだね、ちょっと困ったことになったよ」 <+ 開けっぱなしのドアの向こうから、バタバタと足音> 看護婦  「廊下は静かに!」 ?    「部下の事故だぞっ! 落ち着いて―― おっ、デイブ、ジョンっ!」 <+ 二人、そちらを向くと、報道局長(クロード)が駆けてきている。> <+ 時計、刻まれる秒針、沈黙。閉ざされている病室のドア。→控えめなノック > 看護婦  「あの、御面会はそろそろ」  クロード 「ああ、すぐ済む」 <+ 去っていく看護婦の足音。クロード、顔を病室内へ向け直す。>    クロード 「『明日のアカデミー賞授賞式で、デイブがチーフカメラを務めることが不可能になった』       ・・・これは、間違いの無いことだ」 デイブ  「申し訳ありません」 クロード 「済んだことはいい、これからのことだ」 + サイドテーブル上、紙コップ、三つのコーヒー。どれも手つかずで冷めきっている。 クロード 「スターを撮るってな簡単に出来ることじゃない。ポイントを外しゃ、あっという間にクレームの山だ。       あまつさえ、授賞式は系列局の独占配信だ。看板どころか金看板。絶対に失敗できん」 デイブ  「局長、それなんですが」 クロ−ド 「ジョン。デイブの代わりはお前だ」 デイブ・ジョン 「「!!!??」」 + ジョン苦虫を噛み潰したような顔になり ジョン  「他にも人は……リアムと――バーコフ、ポドルスキも」 クロード 「使える人間は埋まってる。当然の話だ。今日の明日で動かせるのなど、無能者か故障者かだ」 ジョン  「……………………」 クロード 「無能者をすぐに成長させるのは不可能だ。が、故障なら治るかもしれん。       ………… 治せなければ、来月には三人分の求人広告が出るだけの話だ」 ジョン  「………………………………………………………………」 デイブ  「いや、ジョン。先生を呼んでくれるかい?       目蓋をなんとかしてもらえるかを」 クロード 「無茶を言うな!」 ジョン  「命令、なら」 クロード、デイブ  「「!!?」」 <+ ジョン、真っ青な顔> ジョン  「命令ってことなら、断れませんよ。断れる筈が無い」 <+ クロード、話はついた、と立ちあがり、ドアをくぐる。後ろをむいたまま> クロード 「命令だ」 <+ ドア、閉まる> --------------------------------------------- 【TV局、地下駐車場、ロケ車側(集合場所)、早朝】 <+ TV地下駐車場のロケ車(バス)そば、    授賞式撮影スタッフが集まっているが、緊迫した雰囲気。    ひそひそ話をするいくつかの輪と離れて、 ポツン とジョン> A   「どうしてジョンが来てる?」 B   「っていうか、デイブがいないぞ?」 <+ 丸めた台本をパンパンならし、クロード登場> クロード「全員いるか?」 B   「あの、デイビッドが」 クロード「ああ、デイブなら事情でな。ジョンと交代だ」 一同  「「「!!!!!?」」」 <+ ジョンに視線が集中する。ジョン、それを避けようとするかのように、帽子を目深に> A   「何故・・・ですか?」 B   「ですよ! それに、事情って」 クロード「決定事項だ、説明なら、撮り終えた後で改めて」 ?   「ああ! よかった!! みんな、まだ居たのね」 <+ カンカンカン、と甲高いハイヒールの音。Act1で、ジョンを糾弾した女キャスター(レイシー)、登場> レイシー「聞いた? デイブの事故のこと」 A   「事故!!?」 B   「どこでっ―― ってか、デイブは」 レイシー「死者0、軽症1名だから、無事でしょ? 乗せるようなニュースじゃないから、かえって気付くのが遅れたのよ」 A   「どれ」 <+ レイシーが片手にもっていたプリントアウトをA、奪い取り 読む> A   「…………ああ、大した事故じゃないさそうだな。足でもやっちまったか?」 B   「しかし、4thアベニュー? デイブの家とは真逆じゃないか? なんで真夜中に そんな」 ジョン 「デイブは、オレを送ってくれた。その帰りに、事故にあった」 一同  「「「!!!!!!!!」」」 ジョン 「責任は感じている。だから」 レイシー「ふざけないでっ!!!!」 <+レイシー、一気にヒステリー状態。が、まわりはそれを止めようとしない> レイシー「あなた、あなたあなたあなた! なんでいつもチームの足を引っ張るの!?      デイブがあなたを買っているのは知っているわよ。不思議なことにね! けど、      そのデイブまでなんで災難に巻き込むの? 疫病神っ!      あなたがチームに係わると、ロクなことが――」 クロード「いいかげんにしろ、レイシー!」 レイシー「!!?」    クロード「デイブの代役はジョンだ。今日の撮影を今から・おまえが・ぶち壊す気か?」 <+ レイシー、我にかえってあたりを見る。撮影チームの雰囲気は最悪。   非常によそよそしい、冷めきった空気になってしまっている> レイシー 「いえ……でも…………しかし」 クロード 「疫病神だろうがなんだろうが、今はジョンしかおらんのだ」 ?    「あのっ!」 <+ その雰囲気の中、先日のロケのときジョンの代役を務めた若手(ヒース)が挙手> ヒース 「ぼ、僕でよければ、やります――やらせて欲しいですっ!」 クロード「お前に務まる仕事じゃ――――いや」 <+ クロード、しばし目を閉じ沈思黙考> クロード「ジョン、お前は」 ジョン 「引き受けました。(帽子を持ち上げ、まっすぐにクロードと目をあわせ) デイブの目の代わりを」 一同  「「「!!!」」」 ジョン 「時間が」 <+ クロード、すくわれたように> クロード「ああ、時間だお前ら! さっさとバスに乗れ」 一同  「は、はい」「だな、とにかくやらなきゃ」 (レイシー、無言で立ち去る) <+ ジョン、バスに乗ろうとして立ちつくすヒースに気付く> ジョン (非常に躊躇しつつ、しかし) 「……遅れるぞ」 ヒース (うつむいていた顔をあげ)  「いえ、さっきは失礼しました! 今日は一日お願いします!!」 <+ ジョン、わずかに、しかし力強く頷く> ジョン 「ああ、お互い、いい仕事をしよう」 <+ バス 出発> --------------------------------------------- 【授賞式会場、AM11:00ころ】 + ロング、授賞式会場、とても華やか、スターと報道陣たくさん + その舞台裏、TV中継のセッティングにあわただしく動き回っているクロード達中継チーム + 中継チームの中、ジョンも黙々とセッティングに励んでいる。  その手には台本がしっかりと握られている。  ジョン一息をつき、クロードへと近づいていく。 ジョン  「クロード、あそこの照明だが――」 クロード 「ん? ああ、邪魔だな―― が、ありゃあウチじゃどうにもならん。それから、クロードさん、だ」 ジョン  「わかった。なら、カメラ配置を――」 + ジョン、離れる。   クロードカメラスタッフに大声をかける クロード 「配置を少しずらすぞ! ミッキーはもっと袖側に―― そうだ、もう1メートルほど」 + ジョンも、自分のカメラを指示をまたずに動かしている  クロード 「よぉし、それでいい。準備はどうだ?」 + しかし、クロードの呼びかけに返って来るのはテンションの低い返事だけ  A 「はぁ」   B「まぁ」 + クロード、ん? とあたりを見回すと、スタッフはみな、ジョンの方を不信げに・ちらちらとみている + クロード、ぼりぼりと頭をかく。パンパンパン、と大きな音でそのてのひらに台本を打ちつけ、威勢良く クロード 「20分コーヒーブレイクだ。デイブのことは、その間に整理をつけてこい。       休憩あけには、引きずるんじゃないぞ」 + 一同、また意気のあがらぬ返事を返し、いくつかの集団にわかれ、散っていく。 + ジョン、どの集団にも混じらず、一人でスタスタ立ち去っていく + クロード、その全体を見渡しながら、もう一度頭をかく --------------------------------------------- 【授賞式メインロビー・昼前】 + 正装の男女で賑やぐメインロビー。   ジョン、人並みの間を抜けて、外へと向かおうとしている。 ?「ジョン、ジョンでしょ!」 + ジョン、その声に振り向かず、スタスタと ?   「待って、ジョン! ジョン・ヴァーンディー!!」 ジョン 「?」 + フルネームで呼ばれ、ジョン、振り向く。   と、ドレス姿の活発そうな美女が、ジョンに飛びついてくる。 美女   「驚いた! こんなところで会えるなんて」 ジョン  「ドロシー ……何だその格好は」 ドロシー 「似あわない? まぁ、着慣れないものね。そういうジョンは、変らないわね」 + ドロシー、一歩を引いて、いかにもカメラマンっぽいスタイルのジョンをまじまじと、懐かしそうに見つめる。 ドロシー 「信じてたけど。――でも、よかった、まだ撮っててくれて」 ジョン  「オレにはそれしか……それに、今はTVだ」 ドロシー 「TVカメラマン!? あなたが!!? どうりでウワサを聞かないと……」 ジョン  「今も、仕事の休憩中だ。悪いが」 ドロシー 「あ、待って!」 +ドロシー ジョンの服の裾を反射的に掴む。 ジョンの記憶、フラッシュバック <今より若いジョンが、カメラマン見習い! という感じの若いドロシーに、服の裾を引かれ苦笑している> + ドロシー、パっと服の裾を離す ドロシー 「あ、ごめんなさい。また」 ジョン  「いや……それより、何だ?」 ドロシー 「休憩って、まだ時間あるでしょ?」 + ドロシー、ジョンの顔が懐かしそうになごんだのを見逃さず、嬉しそうに・積極的に ドロシー 「お昼、一緒にどう?」 ジョン  「いや、そこまで余裕は」 ドロシー 「じゃ、コーヒーとサンドイッチで」 ジョン  「特に腹は」 ドロシー 「OK、コーヒーにしましょ」 + ジョン、苦笑しながら、ホール内のカフェ向け歩きだす ジョン  「もう弟子じゃないんだ、奢らんぞ」 ドロシー 「はい先生! ゴチになります!!」 ジョン  「元、だ。割り勘だ」 + 二人、カフェのドアをくぐる     --------------------------------------------- 【授賞式会場・カフェ】 + 空になっているコーヒーカップと、皿。   + ジョンとドロシー、会話がはずんでいる感じ  (ドロシーが楽しげに話しているのを、ジョンが楽しげに聞いている) ドロシー 「でね? その姉妹の名前がワーナーで、もうみんな おお笑い」 ジョン  「兄弟なら大儲け出来たのになぁ」 ドロシー 「でしょ? 惜しかったわ」 + ドロシー、話し終えてふっ、と一息。   と、ジョン、その口の端パン屑が付いていることに気付いて―― ジョン  「ああ」 ――なんの気無しにひょいっとそれをつまみとる、と、ドロシー、 みるみる顔を紅潮させて、ジョンのその手を両手でシッカと包む。 ジョン 「!?」 + ドロシー、必死 ドロシー 「戻って来て、ジョン。わかってくれるでしょ? 全部は誤解――       ううん、みんなに誤解させ、あなたの居場所が無くなるように仕向けた、       レベジェフの策略だったのよ」 ジョン  「っ!」 <<ジョンの脳裏に、過去の思い出が一気にフラッシュバック>>  →・初めて尋ねた撮影所 ・門前払い ・気のいいベテランカメラマン ・見習いの仕事    ・初めて任されたカメラ ・組合加入 ・監督にほめられる ・監督から指名で仕事をもらう   ・チーフとしてカメラスタッフを仕切る ・ドロシーとの出会い ・ドロシーへの訓練   ・ドロシーの告白 ・ドロシーとの恋愛 ・蜜月 ・ドロシーと見知らぬ男   ・ドロシーとの大げんか ・ドロシーの起こす大事故 ・身代りになりハリウッドを去るジョン + ドロシー、手を思いっきり強く掴んで ドロシー「レベジェフはハリウッドを追われたわ。      あなたが泥をかぶってくれたと、今なら みんなわかってる。      もちろん私も ――いいえ、私は―― ずっとあなたに謝りたかった。      謝って、もう一度やりなおしたかったの。      私には、やっぱりあなたが必要だから」 + ドロシー、泣きそうな目。ジョン、明らかに動揺している ドロシー「お願い、戻って来て」 ジョン 「………………………………」 + ジョン、震える左手を、掴まれている右手に重ねようとする、と チン、という音 + ハっとして左手を見ると、ガラスのコップに当たってしまったのは、薬指の結婚指輪。 + 沈黙。静寂。直後、ロビーからだんだん近づいてくるクロードのどなり声 クロード 「ジョン! ジョンのバカは――ああ、失礼! ジョン! どこだっ! 時間だぞ、ジョンっ!!」 + ジョン、目を閉じ、開く。 + ジョン、左手を、包まれている右手に重ねる。 + ドロシー、パアっ! と嬉しそうな顔。(アップ)    けど、その顔がみるむる曇る。 + ジョンの左手は、右手を包むドロシーの指を、一本一本外していく。 ジョン  「言ったろ? もう弟子じゃない」 ドロシー 「じゃなくてっ」 ジョン  「いいや、一人だちする時期だ。お前も、オレもな」 ドロシー 「…………」 + ドロシーの手、力を失う。   ジョン、伝票を持って立ち上がる。   振り向かずに、ジョン。 ジョン  「オレにもしも頼りたいときは、オレの撮ったものを見ろ。       そこには必ずオレがいる」 ドロシー 「!」 ジョン  「今のお前も、見せてもらうよ。最新作は、何だ?」 + ドロシー、立ち上がり、ジョンの背中に ドロシー 「『バーベキュー・ブラボー』! 自信作だわ」 ジョン  「OK。俺のは、今日の授賞式だ」 + ジョン、札と伝票とをまとめてレジに出し、釣りは受け取らずにたちさる + カフェに残ったままのドロシーの耳に クロード 「ジョン、お前っ」 ジョン  「説教なら、撮影の後で頼みます」 クロード 「お ――おうっ!」 + ドロシー後ろ姿、表情はわからない。  【舞台裏、撮影現場】 + ジョン、セッティングしてあるカメラをのぞく + ジョンの目。カメラのファインダーのなかに映る、授賞式の晴れ舞台 + ブーーーーーーっ、というブザー、  ざわつきが消え、照明が落ちる →画面、ゆるやかに暗転 --------------------------------------------- <> 【病院、デイブの病室】 + 暗転したままの画面、声 ?   「痛みはありませんか?」 ?   「ええ、大丈夫です」 ?   「それじゃ、包帯を外しますね」 + 画面、閉じた瞼の上にされていた包帯がほどける感じで、徐々に明るくなる ?   「はい、ゆっくり目を開いてみてください」 + 画面、明るくなる。そこには、医者と看護婦と病室 医者  「ああ、腫れは完全に引いてますね」 + 医者、鏡を見せる、そこに映るのは、元気そうなデイブ   + 医者、鏡を動かす、と、その中に時計が移りこむ、デイブの表情、ハっとする。   カメラ引く デイブ 「先生! すみませんっ、検査の続きはまた後で」 医者  「お、おい」 + デイブ、待合室のロビーに行く、そこでは、丁度タイトルロールが出ている   『第×回、アカデミー賞授賞式』 (←英語で) --------------------------------------------- 【アカデミー賞授賞式】 <印象的な短いカットを重ねて、モンタージュで上手くいった撮影ということを伝える>  + 台本を振り、ゴーを出すクロード + 舞台上、上がる幕 + ジョンがカメラ操作する手元 + (ジョンのカメラで) 司会者たち + 照明スタッフが照明を調整 + ジョンの真剣な目 + (ジョンのカメラで) 主演女優賞、オスカーにキスする地味な美女 + (ジョンの家) 授賞式を見ている妻、キャサリンと息子 マイク (楽しそう) +  クロード、ヘッドセットに指示 +  ジョン、口元ニヤリ + (ジョンのカメラで:ここだけ長回し)        センターマイクに向かって歩いてくる俳優、顔アップ。     ↓       移動する彼の姿を、カメラ ドセンターにとらえながら、カメラはブレなく、グルリとまわりこみつつ引いていく     ↓      ロング、俳優の後ろ姿ナメで、観客席。満場の観客が、万雷の拍手を俳優に送っている。 +  (見事なカットに)クロード、ガッツポーズ!    クロードと一緒にモニターチェックをしている編集者、ヒュ〜っ! と口笛 +  必死でジョンのケーブルをさばきまくるAD、とケーブルが不意に動かなくなり、    ぽとり、と一滴の汗が落ちてくる。   ADはジョンを見上げる、ジョン、緊張した面持ち (そこにかぶさる声)     「――――本年度の、撮影賞は」 +  暗くなる画面、会場を走り回るスポットライト + 「『バーべキュー・ブラボー!』」 + (ジョンのカメラ)    スポットライトがあたり、わっ! と沸き立つ一角。    その真ん中で、ジョンの元カノ、ドロシーが嬉し泣き笑いしている。     +  ジョン、一瞬だけ笑って、すぐに真剣な表情 +  また動き回るケーブル、あわててさばくAD +  クロードの傍ら、タイムキーパーがカウント、クロード、手の台本はぐちゃぐちゃ +  (ジョンのカメラ)    司会者 「それでは、また来年おあいしましょう!」 +   華やかな音楽、画面、ブラックアウト +   黒画面に、クロードの大声かぶる 「OK! オールOKだっ!!」 --------------------------------------------- 【地下駐車場、ロケバス周辺】 +  クロード 「今日はここで解散だ。お疲れ」    一同   「お疲れっしたーーーっ!」 +  三々五々に散っていく一同、ジョンも、自分の荷物をまとめる、と誰かに肩をたたかれる    スタッフ 「お疲れ」    ジョン  「!?」 +  ジョン、戸惑いつつも、ぎこちなく返事を返す        ジョン  「あ、ああ――お疲れ」 +  他のスタッフも、ジョンに声をかけたり、目礼したりしながら帰っていく        スタッフ 「んじゃ、また」    スタッフ 「乙ー」    スタッフ 「この調子で頼むぜ」 +  ジョン、あいさつを返し、自分の車へ向かう と、クロードの大声    クロード 「ジョン! タイムカードを忘れてるぞ」    一同   (明るい笑い) +  ジョン、振り向き、帽子のつばを上げて、照れ笑いする --------------------------------------------- 【TV局、廊下】 + ジョン、タイムカード押す + 出口に向かって歩き始める、と、局廊下に新しい張り紙が今貼られようとしている    【速報! “アカデミー賞授賞式 201x 27.0%!”】  + ジョン、興味無さそうに目をそむける + 廊下の角を曲がった瞬間、ジョン、小さくガッツポーズ --------------------------------------------- 【ジョン 自宅】 + ガレージに、静かに駐車される車 + ジョン、窓際をゆっくり歩く、漏れてくる妻子の声 マイケル  「今日ので、どれが一番良さそうだった?」 キャサリン 「そうねぇ・・・『バーべキュー・ブラボー?』」 マイケル  「だよね! ってか、今度見に行かない?」 キャサリン 「でも、お父さんが」 マイケル  「内緒で行けば平気だよ!」 ジョン   「内緒じゃなくても、平気だ」 (窓がらり) 凍りつくマイケルとキャサリン ジョン、車を指さす ジョン   「オレも見たいと思っていた。今から行こう」 +キャサリン、パァっと嬉しそうな顔になる、マイケル、反撥 マイケル  「な、なんだよ急にっ!」 ジョン   「行かんのか? 良い映画だぞ」 マイケル  「ってか! 今まで さんざん」 キャサリン 「マイク、お父さんのオススメなら、本当に良い映画よ?        見に行かなきゃ、もったいないわ」 マイケル  「……後で文句言うなよな」 + クルマのドア、閉まる + 暗転 --------------------------------------------- 【エピローグ 映画館】 + 突如! けたたましいブレーキ音、 + クルマのドア、開く、と、そこに銃撃が遅い来る!! + 開いたドアを盾に、髭面のメキシコ人が応戦、 (映画中のシーンであることがわかる) + ポップコーンを片手に、夢中になってみているマイク + と、その一個向こうの座席では、やはり真剣なまなざしで、ジョンがスクリーンを見つめている + キャサリン、幸せそうに微笑み、スクリーンに目を向ける + スクリーンでは、ヒロインと主役がキスをしている。   + エンドマーク “ハッピーエンド” + スタッフロール、流れる + おしまい