【ハリウッドもののバックストーリー】 「何をやっているんだ、何をっ!」  報道局長の怒声に、局員は“またか”とうんざり顔をする。 「何って、撮影ですが」 「出来とらんから怒っとるっ! バッテリー無しのカメラに何が出来るというんだ!」 「バッテリーは装着しました。それがカラで、予備もなかったことは、オレの責任では」 「お前の責任だ、ジョン! 備品の管理もアシスタントの管理もっ!」 「そうですか。なら、注意しときます」 「ジョン……これで何度目だ?」  ふうっと、大きなため息を交え、報道局長がうなだれる。 「デイビットの紹介だから、期待してお前を迎え入れたんだぞ。それを」 「はいはい、お呼びですか、局長!」  途端、長身の男が対峙する二人のまん真ん中へと割りこんでくる。   「いや、今は私とジョンとの話しだ」 「けど、ボクの名前が聞こえましたよ? あ、あれですか!?  来週の大仕事! アレの件なら、丁度局長にご指示頂戴したいこともあって――」 「私に? 何だ」 「はい、実は――」  局長とジョンとの間に割り込んだ長身の男――  デイビットの手が、その背中側で ひょいひょい、と “ここは任せて、早く行け” と、ジョンへのサインを素早く送る。  それを見たジョンは、表情ひとつを変えぬまま、ただでさえ目深にかぶっていた帽子のツバを もう一段階深く下ろして、無言のままに局を出ていく。 --------------------------------------------- 「帰った」  ため息のような小さな声に、けれども即座の反応がある。  エプロンをつけた小柄な女性が、ぱたぱたと家の奥から小走りにかけてくる。 「お帰りなさい、あなた。今日はお食事は?」 「まだだ」 「なら良かった、今日はミートローフと」 (ドーーーーーーーーーンッ!) 「「!!?」」  突如、家の奥から大音声の爆発音が響いてくる。  ジョンの無表情に、サっと怒りの朱が走る。 「また映画か」 「マイケル! マイケル、ボリュームが大きいわっ ――あ、ちょっ」 「マイケルっ! そんなくだらんものを見ている暇があったら」 「お帰り父さん。宿題も予習ももう済んでるけど?」 「っ!」  リビングでTVを見ていた息子・マイケルの その態度に、 ジョンは苦虫を噛み潰したかのような顔になる。  エプロンの女性が、あわてマイケルを叱ろうとする  「マイケル、映画を見るのはいいけど、お父さんはお仕事で疲れて帰って来て」  しかしジョンは、妻のフォローを完全に無視し、部屋をさっさと立ち去ろうとする。 「あの、あなた、お食事っ」 「レンジに入れておけ。朝でいい」 「…………はい」 その会話をかきけそうとでもするかのように、マイケルはさらにTVのボリュームを上げる。 TV画面の中では、いかにも悪そうな宇宙人が、勝ち誇ったような高笑いをしている。 『もうお終いだ! 貴様らには、一縷の望みも残っていまい!! もうお終いだ!!』 ---------------------------------------------