Act2 【病院、病室、深夜】 <+ 深夜の病院に、荒々しくジョンの車が乗り付ける> <+ 声だけ> ジョン  「身内のものだ。今日の事故でデイビット・バローというものが」 時間外受付「3階の3101です。お会いいただけますが、長時間の御面会は」 ジョン  「ああ」 <+ 3101号室の扉、ジョンの手がノックする。> デイビット「はい」 ジョン  「デイブ、無事か!?」 デイビット「ジョンか、よく来て」 <+ デイビットの言葉終わらぬうちに開けられる扉。ジョンの背中、で画面埋まる。> ジョン  「デイブ――お前……お前っ」 <+ 崩れ落ちるジョン、画面開く。と、ベッドの上でこちらを見ているデイブの目には、包帯。> ジョン  「目を――目をっ」 デイブ  「ああ、大丈夫だって! 目蓋のやけどだけだから!!」 ジョン  「目蓋の?」 デイブ  「詳しい検査はやけどが治ってからだけど、眼球には異常無さそうって、先生が」 ジョン  「そうか……」 <+ ジョン、ほっとしたように立ちあがり、はっ! として、デイビットへと近寄る。> ジョン  「他に怪我は」 デイブ  「軽いもんだよ。一番重いので目蓋のやけど。全治、2〜3日だってさ」 ジョン  「そうか、それなら……」 <+ ジョンの顔、凍りつく> ジョン  「いや――お前、明日って」 デイブ  「そうだね、ちょっと困ったことになったよ」 <+ 開けっぱなしのドアの向こうから、バタバタと足音> 看護婦  「廊下は静かに!」 ?    「部下の事故だぞっ! 落ち着いて―― おっ、デイブ、ジョンっ!」 <+ 二人、そちらを向くと、報道局長(クロード)が駆けてきている。> <+ 時計、刻まれる秒針、沈黙。閉ざされている病室のドア。→控えめなノック > 看護婦  「あの、御面会はそろそろ」  クロード 「ああ、すぐ済む」 <+ 去っていく看護婦の足音。クロード、顔を病室内へ向け直す。>    クロード 「『明日のアカデミー賞授賞式で、デイブがチーフカメラを務めることが不可能になった』       ・・・これは、間違いの無いことだ」 デイブ  「申し訳ありません」 クロード 「済んだことはいい、これからのことだ」 + サイドテーブル上、紙コップ、三つのコーヒー。どれも手つかずで冷めきっている。 クロード 「スターを撮るってな簡単に出来ることじゃない。ポイントを外しゃ、あっという間にクレームの山だ。       あまつさえ、授賞式は系列局の独占配信だ。看板どころか金看板。絶対に失敗できん」 デイブ  「局長、それなんですが」 クロ−ド 「ジョン。デイブの代わりはお前だ」 デイブ・ジョン 「「!!!??」」 + ジョン苦虫を噛み潰したような顔になり ジョン  「他にも人は……リアムと――バーコフ、ポドルスキも」 クロード 「使える人間は埋まってる。当然の話だ。今日の明日で動かせるのなど、無能者か故障者かだ」 ジョン  「……………………」 クロード 「無能者をすぐに成長させるのは不可能だ。が、故障なら治るかもしれん。       ………… 治せなければ、来月には三人分の求人広告が出るだけの話だ」 ジョン  「………………………………………………………………」 デイブ  「いや、ジョン。先生を呼んでくれるかい?       目蓋をなんとかしてもらえるかを」 クロード 「無茶を言うな!」 ジョン  「命令、なら」 クロード、デイブ  「「!!?」」 <+ ジョン、真っ青な顔> ジョン  「命令ってことなら、断れませんよ。断れる筈が無い」 <+ クロード、話はついた、と立ちあがり、ドアをくぐる。後ろをむいたまま> クロード 「命令だ」 <+ ドア、閉まる> --------------------------------------------- 【TV局、地下駐車場、ロケ車側(集合場所)、早朝】 <+ TV地下駐車場のロケ車(バス)そば、    授賞式撮影スタッフが集まっているが、緊迫した雰囲気。    ひそひそ話をするいくつかの輪と離れて、 ポツン とジョン> A   「どうしてジョンが来てる?」 B   「っていうか、デイブがいないぞ?」 <+ 丸めた台本をパンパンならし、クロード登場> クロード「全員いるか?」 B   「あの、デイビッドが」 クロード「ああ、デイブなら事情でな。ジョンと交代だ」 一同  「「「!!!!!?」」」 <+ ジョンに視線が集中する。ジョン、それを避けようとするかのように、帽子を目深に> A   「何故・・・ですか?」 B   「ですよ! それに、事情って」 クロード「決定事項だ、説明なら、撮り終えた後で改めて」 ?   「ああ! よかった!! みんな、まだ居たのね」 <+ カンカンカン、と甲高いハイヒールの音。Act1で、ジョンを糾弾した女キャスター(レイシー)、登場> レイシー「聞いた? デイブの事故のこと」 A   「事故!!?」 B   「どこでっ―― ってか、デイブは」 レイシー「死者0、軽症1名だから、無事でしょ? 乗せるようなニュースじゃないから、かえって気付くのが遅れたのよ」 A   「どれ」 <+ レイシーが片手にもっていたプリントアウトをA、奪い取り 読む> A   「…………ああ、大した事故じゃないさそうだな。足でもやっちまったか?」 B   「しかし、4thアベニュー? デイブの家とは真逆じゃないか? なんで真夜中に そんな」 ジョン 「デイブは、オレを送ってくれた。その帰りに、事故にあった」 一同  「「「!!!!!!!!」」」 ジョン 「責任は感じている。だから」 レイシー「ふざけないでっ!!!!」 <+レイシー、一気にヒステリー状態。が、まわりはそれを止めようとしない> レイシー「あなた、あなたあなたあなた! なんでいつもチームの足を引っ張るの!?      デイブがあなたを買っているのは知っているわよ。不思議なことにね! けど、      そのデイブまでなんで災難に巻き込むの? 疫病神っ!      あなたがチームに係わると、ロクなことが――」 クロード「いいかげんにしろ、レイシー!」 レイシー「!!?」    クロード「デイブの代役はジョンだ。今日の撮影を今から・おまえが・ぶち壊す気か?」 <+ レイシー、我にかえってあたりを見る。撮影チームの雰囲気は最悪。   非常によそよそしい、冷めきった空気になってしまっている> レイシー 「いえ……でも…………しかし」 クロード 「疫病神だろうがなんだろうが、今はジョンしかおらんのだ」 ?    「あのっ!」 <+ その雰囲気の中、先日のロケのときジョンの代役を務めた若手(ヒース)が挙手> ヒース 「ぼ、僕でよければ、やります――やらせて欲しいですっ!」 クロード「お前に務まる仕事じゃ――――いや」 <+ クロード、しばし目を閉じ沈思黙考> クロード「ジョン、お前は」 ジョン 「引き受けました。(帽子を持ち上げ、まっすぐにクロードと目をあわせ) デイブの目の代わりを」 一同  「「「!!!」」」 ジョン 「時間が」 <+ クロード、すくわれたように> クロード「ああ、時間だお前ら! さっさとバスに乗れ」 一同  「は、はい」「だな、とにかくやらなきゃ」 (レイシー、無言で立ち去る) <+ ジョン、バスに乗ろうとして立ちつくすヒースに気付く> ジョン (非常に躊躇しつつ、しかし) 「……遅れるぞ」 ヒース (うつむいていた顔をあげ)  「いえ、さっきは失礼しました! 今日は一日お願いします!!」 <+ ジョン、わずかに、しかし力強く頷く> ジョン 「ああ、お互い、いい仕事をしよう」 <+ バス 出発> --------------------------------------------- 【授賞式会場、AM11:00ころ】 + ロング、授賞式会場、とても華やか、スターと報道陣たくさん + その舞台裏、TV中継のセッティングにあわただしく動き回っているクロード達中継チーム + 中継チームの中、ジョンも黙々とセッティングに励んでいる。  その手には台本がしっかりと握られている。  ジョン一息をつき、クロードへと近づいていく。 ジョン  「クロード、あそこの照明だが――」 クロード 「ん? ああ、邪魔だな―― が、ありゃあウチじゃどうにもならん。それから、クロードさん、だ」 ジョン  「わかった。なら、カメラ配置を――」 + ジョン、離れる。   クロードカメラスタッフに大声をかける クロード 「配置を少しずらすぞ! ミッキーはもっと袖側に―― そうだ、もう1メートルほど」 + ジョンも、自分のカメラを指示をまたずに動かしている  クロード 「よぉし、それでいい。準備はどうだ?」 + しかし、クロードの呼びかけに返って来るのはテンションの低い返事だけ  A 「はぁ」   B「まぁ」 + クロード、ん? とあたりを見回すと、スタッフはみな、ジョンの方を不信げに・ちらちらとみている + クロード、ぼりぼりと頭をかく。パンパンパン、と大きな音でそのてのひらに台本を打ちつけ、威勢良く クロード 「20分コーヒーブレイクだ。デイブのことは、その間に整理をつけてこい。       休憩あけには、引きずるんじゃないぞ」 + 一同、また意気のあがらぬ返事を返し、いくつかの集団にわかれ、散っていく。 + ジョン、どの集団にも混じらず、一人でスタスタ立ち去っていく + クロード、その全体を見渡しながら、もう一度頭をかく --------------------------------------------- 【授賞式メインロビー・昼前】 + 正装の男女で賑やぐメインロビー。   ジョン、人並みの間を抜けて、外へと向かおうとしている。 ?「ジョン、ジョンでしょ!」 + ジョン、その声に振り向かず、スタスタと ?   「待って、ジョン! ジョン・ヴァーンディー!!」 ジョン 「?」 + フルネームで呼ばれ、ジョン、振り向く。   と、ドレス姿の活発そうな美女が、ジョンに飛びついてくる。 美女   「驚いた! こんなところで会えるなんて」 ジョン  「ドロシー ……何だその格好は」 ドロシー 「似あわない? まぁ、着慣れないものね。そういうジョンは、変らないわね」 + ドロシー、一歩を引いて、いかにもカメラマンっぽいスタイルのジョンをまじまじと、懐かしそうに見つめる。 ドロシー 「信じてたけど。――でも、よかった、まだ撮っててくれて」 ジョン  「オレにはそれしか……それに、今はTVだ」 ドロシー 「TVカメラマン!? あなたが!!? どうりでウワサを聞かないと……」 ジョン  「今も、仕事の休憩中だ。悪いが」 ドロシー 「あ、待って!」 +ドロシー ジョンの服の裾を反射的に掴む。 ジョンの記憶、フラッシュバック <今より若いジョンが、カメラマン見習い! という感じの若いドロシーに、服の裾を引かれ苦笑している> + ドロシー、パっと服の裾を離す ドロシー 「あ、ごめんなさい。また」 ジョン  「いや……それより、何だ?」 ドロシー 「休憩って、まだ時間あるでしょ?」 + ドロシー、ジョンの顔が懐かしそうになごんだのを見逃さず、嬉しそうに・積極的に ドロシー 「お昼、一緒にどう?」 ジョン  「いや、そこまで余裕は」 ドロシー 「じゃ、コーヒーとサンドイッチで」 ジョン  「特に腹は」 ドロシー 「OK、コーヒーにしましょ」 + ジョン、苦笑しながら、ホール内のカフェ向け歩きだす ジョン  「もう弟子じゃないんだ、奢らんぞ」 ドロシー 「はい先生! ゴチになります!!」 ジョン  「元、だ。割り勘だ」 + 二人、カフェのドアをくぐる     --------------------------------------------- 【授賞式会場・カフェ】 + 空になっているコーヒーカップと、皿。   + ジョンとドロシー、会話がはずんでいる感じ  (ドロシーが楽しげに話しているのを、ジョンが楽しげに聞いている) ドロシー 「でね? その姉妹の名前がワーナーで、もうみんな おお笑い」 ジョン  「兄弟なら大儲け出来たのになぁ」 ドロシー 「でしょ? 惜しかったわ」 + ドロシー、話し終えてふっ、と一息。   と、ジョン、その口の端パン屑が付いていることに気付いて―― ジョン  「ああ」 ――なんの気無しにひょいっとそれをつまみとる、と、ドロシー、 みるみる顔を紅潮させて、ジョンのその手を両手でシッカと包む。 ジョン 「!?」 + ドロシー、必死 ドロシー 「戻って来て、ジョン。わかってくれるでしょ? 全部は誤解――       ううん、みんなに誤解させ、あなたの居場所が無くなるように仕向けた、       レベジェフの策略だったのよ」 ジョン  「っ!」 <<ジョンの脳裏に、過去の思い出が一気にフラッシュバック>>  →・初めて尋ねた撮影所 ・門前払い ・気のいいベテランカメラマン ・見習いの仕事    ・初めて任されたカメラ ・組合加入 ・監督にほめられる ・監督から指名で仕事をもらう   ・チーフとしてカメラスタッフを仕切る ・ドロシーとの出会い ・ドロシーへの訓練   ・ドロシーの告白 ・ドロシーとの恋愛 ・蜜月 ・ドロシーと見知らぬ男   ・ドロシーとの大げんか ・ドロシーの起こす大事故 ・身代りになりハリウッドを去るジョン + ドロシー、手を思いっきり強く掴んで ドロシー「レベジェフはハリウッドを追われたわ。      あなたが泥をかぶってくれたと、今なら みんなわかってる。      もちろん私も ――いいえ、私は―― ずっとあなたに謝りたかった。      謝って、もう一度やりなおしたかったの。      私には、やっぱりあなたが必要だから」 + ドロシー、泣きそうな目。ジョン、明らかに動揺している ドロシー「お願い、戻って来て」 ジョン 「………………………………」 + ジョン、震える左手を、掴まれている右手に重ねようとする、と チン、という音 + ハっとして左手を見ると、ガラスのコップに当たってしまったのは、薬指の結婚指輪。 + 沈黙。静寂。直後、ロビーからだんだん近づいてくるクロードのどなり声 クロード 「ジョン! ジョンのバカは――ああ、失礼! ジョン! どこだっ! 時間だぞ、ジョンっ!!」 + ジョン、目を閉じ、開く。 + ジョン、左手を、包まれている右手に重ねる。 + ドロシー、パアっ! と嬉しそうな顔。(アップ)    けど、その顔がみるむる曇る。 + ジョンの左手は、右手を包むドロシーの指を、一本一本外していく。 ジョン  「言ったろ? もう弟子じゃない」 ドロシー 「じゃなくてっ」 ジョン  「いいや、一人だちする時期だ。お前も、オレもな」 ドロシー 「…………」 + ドロシーの手、力を失う。   ジョン、伝票を持って立ち上がる。   振り向かずに、ジョン。 ジョン  「オレにもしも頼りたいときは、オレの撮ったものを見ろ。       そこには必ずオレがいる」 ドロシー 「!」 ジョン  「今のお前も、見せてもらうよ。最新作は、何だ?」 + ドロシー、立ち上がり、ジョンの背中に ドロシー 「『バーベキュー・ブラボー』! 自信作だわ」 ジョン  「OK。俺のは、今日の授賞式だ」 + ジョン、札と伝票とをまとめてレジに出し、釣りは受け取らずにたちさる + カフェに残ったままのドロシーの耳に クロード 「ジョン、お前っ」 ジョン  「取り戻します、説教は、撮影の後で」 クロード 「お ――おうっ!」 + ドロシー後ろ姿、表情はわからない。